西洋古典を読む(2019/1/30)

福西です。

『アエネーイス』(日本語訳)の第1巻34行~75行を読みました。

ユーノーがトロイア人の船団を見つけます。船は嬉々としてシチリア島を発し、イタリアに向かおうとしているところでした(それまでの出来事は第3巻で語られます)。

ユーノーは、「このままでは自分は『敗北者』(victa、37行目)となってしまう」と苛立ち、何としてもイタリア上陸の「運命を引き延ばそう」とします。

そこで風の神アエオルスの力を借ります(命じます)。

64行目に、「歎願者ユーノー」(Iuno supplex)という表現が出てきます。

A君がsupplexという単語を羅英辞典で引いてくれました。

そこにはkneelingとありました。

次に、英和辞典でkneelを引きました。

そこには「ひざまずくこと」とありました。

ユーノーは神々の女王です。そのことを自分でも表明しているユーノーが、一番弱い歎願者となることに、どういうニュアンスがあるのでしょうか?

この「歎願」は、実際には「脅し」に近いものです。「もし断れば、あとでどうなるか分かっておろうな?」と言われているようなものなので、下級の神アエオルスにとっては選択肢はあってないようなものです。

そのような脅迫じみた歎願者の例として、あとでギリシャ悲劇からアイスキュロス『歎願する女たち』を紹介しました。かいつまんで次の通りです。

(結婚を嫌がって)エジプトから逃げてきた女たちがアルゴスの王に対し、至急の亡命の受け入れを迫ります。王は「民会に諮ってから返事する」と言いますが、「今すぐ受け入れられなければ自殺してあなたの国の穢れとなってやる」と女たちは叫びます。王は困ります。もし受け入れれば、追いかけてきた者たち(エジプト)との戦争が予想されます。戦争はどのみち王一人ではできません。民衆を説得し、彼らの口からも「たとえ戦争になるリスクを負っても、亡命者を受け入れてやってくれ」と言ってもらう必要があります。しかし、それさえ女たちは待ってくれません。「即刻でなければ受け入れ拒否とみなして今すぐ死ぬ」と叫んでいる……。どっちに転んでも悲劇が待っているという話です。

このような「捨て身の歎願者」は、「強者を動かす弱者」です。

さて、ユーノーは「嵐を起こしてくれたなら、お前にデーイオペーアというニンフをやろう」と、褒美(賄賂)を約束します。

それに対するアエオルスの返答を次回に見ます。

 

P.S.

A君は、「最近また(シュメールに)興味が出てきて、『ギルガメッシュ叙事詩』(矢島文夫訳、ちくま学芸文庫)を読んでいます」と教えてくれました。そして、以前は気付かなかった発見があったことを、嬉々として知らせてくれました。それを聞いて、私も読んでみたくなりました。