漢文入門担当の陳です。
先週木曜日の講座では、前の週に取り組んだ劉基「売柑者言」の訓読の復習及び終わらなかった部分の読解を行い、続いて諸葛亮「出師表」の読解に入りました。
現在、本講座では、名作と呼ばれる文学作品を味わうことを通じて漢文訓読を学習しておりますが、題材を選ぶ際には多くの作品に共通する中国の伝統的な思想を反映するものを探し、ただ規則に当てはめて訓読するトレーニングに終わらないよう、適宜著者はどういう背景に基づいてそのような発言を行ったのか、その文章の面白さはどこにあるのか、説明を加えるよう心がけております。
諸葛亮「出師表」は儒教の価値観の一つである「忠」を代表する作品として古くから日中両国で親しまれてきました。この文章が最初に掲載されたのは晋の陳寿『三国志』ですが、『文選』・『古文真宝』・『古文観止』などの漢文の名作選でもほとんどのものに採録されており、その流行の一端を窺うことができます。
今回の講座ではいわゆる胡克家本の『文選』を教科書として読解を進めております。それは、『文選』に附された唐代の学者・李善の注釈が的確に文章の作者が依拠したと思われる経典や先行する文学作品を的確に指摘しており、高い参考価値をもつからです。
また、胡克家は十九世紀当時最高峰といわれた南京の版木職人・劉文奎・劉文楷兄弟に依頼して書籍を刊行しており、我々は劉兄弟によって彫られた大変精緻な楷書で読書を楽しむことができます。前回の「売柑者言」は明の正徳年間に彫られた木版本を用いて読みましたが、その正徳刊本は、宋代の美しい書物への回帰を目指す風潮のはしりとして出版されたものの一つと言われております。必死に辞書を引きながら文章を読み終えた後は、様々な木版本の字体を見比べてそこに込められた当時の文人や職人の気持ちに思いを馳せてみるのも、色々な本を見ることのできる現代人に許された贅沢な楽しみといえるでしょう。