山びこ通信」2017年度冬学期号より下記の記事を転載致します。
『西洋の児童文学を読む』
担当 福西 亮馬
このクラスでは、『王への手紙』(トンケ・ドラフト、西村由美訳、岩波少年文庫)の上・下巻を読んでいます。いよいよ上巻が終わります。(この稿を書いている時点で、あと二週分です)。一週間に一節ずつ、一年かけてじっくり読んできました。
物語自体は、十六歳の少年ティウリが、東の母国から出発し、西の隣国まで、死んだ騎士の代わりに手紙を届けるという、シンプルな構成です。今読んでいる個所は、物語的にも、地理的にも、そのちょうど真ん中の地点です。大山脈という場所です。
ここで、自分を信用することで何とか苦難を乗り越えてきたティウリに、一つの転機が訪れます。これまでも幾人かの理解者と道中を共にすることはあったにせよ、彼は心中では孤独な旅を続けてきました。手紙のことをだれにも打ち明けられないからです。物音に警戒し、いつ敵が襲ってきて手紙を奪われるかもしれないという不安と、つねに背中合わせでした。人を見ればまずは敵かと不信を抱くことにも慣れてきました。
そんな折、年の近い山育ちの少年と出会います。彼の名はピアック。ティウリには騎士からの任務があるように、ピアックにもまた彼の仕える賢者からの任務があります。それは「ティウリを手助けするように」というものでした。ピアックはティウリの秘密に気付いて、こう打ち明けます。
「だけど、ぼくがいったん知ったからには、ぼくが知ってるってことをきみが知ってたほうがいいと思う。そうすれば、きみも気が楽になるし、ぼくも知らないふりをする必要がない。」(5.4)
ティウリはそれで心を開き、「きみを完全に信用する。」と握手を求めます。そのあと、秘密の共有者を得たティウリの心境とは、次のようなものでした。
いまはもう、疲れや痛み、心配や不信の念になやまされることなく、すべてが
ずっとよく見えるようになった気がした。(5.4)
こうして物語は後半へと進みます。二人旅となってからも危険はさらに増し、スパイが彼らの後をつけ狙います。そのとき、クラスでは、生徒たちは六年生になっているでしょう。あと一年あります。ぜひ読み終え、大団円を迎えましょう。