イタリア語講読の様子を山びこ通信(2012/6月号)より転載いたします。
『イタリア語講読』 (担当:柱本元彦)
今学期のテクストはちょっと目先を変えて映画のシナリオを使用しています。作家・詩人・社会に発言する知識人として、戦後イタリアで誰よりも大きな影響力(あるいはスキャンダル力)をもったパゾリーニは、映画監督としてもフェッリーニに匹敵する仕事を残しました。そのパゾリーニの短篇映画、Che cosa sono le nuvole?(雲って何だろう)は、日本では未公開だったようでビデオも出回らず(その他のパゾリーニ映画はほとんど日本で入手可能です)、残念ながら知られざる傑作になってしまいました(イタリアでは有名な作品ですが)。主演のトトはイタリア最高の喜劇俳優で、知らないイタリア人はおそらくいませんが、ほとんど盲目となった最晩年のこの演技もほんとうに素晴らしい。トトの他には、二ネット、チッチョとフランコ、アドリアーナ・アスティ、ラウラ・ベッティ、そしてモデューニョが歌いながら出演するという、実に豪華なものです。ストーリーはシェークスピアのオセロを下敷にしていますから、物語を追うことに関してはかんたんです。しかしオセロを下敷にしてこんな映画を撮ることができたとは!と驚きながら見とれてしまいますね。20分ほどですから時間的にもちょうどよく、以前からぜひ授業であつかいたいと考えていました。実際のところ、ビデオが利用できるテクストは便利なものですが、これは望みうる最高のもののひとつと思います。シナリオにも映画にも、ローマ方言とナポリ方言が少し入ってきますが、二つとも方言中の方言ですから、このようなかたちに慣れるのも有益な勉強ではないでしょうか(はじめは多少とまどいますが)。そして、授業ではとくに触れませんが、シナリオと実際の映画の台詞との差を見るのもおもしろく、映画を見ただけではよく分からなかったショットも理解させてくれます。というわけで、現在、三名で読み進めていますが、受講生のツッコミには講師もたじたじ、、、と申しますか、講師としてもとても楽しく勉強させていただいています。
(柱本元彦)