中学理科の様子を、山びこ通信(2012年春号)より転載いたします。
「おぉーっ!!」という歓声。「氷の花」が咲いたのです。顕微鏡で見た雪の結晶のこと? いいえ違います。氷の中で一緒に凍らせた花(氷中花)のこと? いいえ違います。花のように開く氷のことです。どういうことでしょうか?
あまり知られていないことですが、水が凍るには、温度が氷点下(0℃以下)になることに加え、もうひとつ条件があります。それは、物理的な刺激です。その刺激によって、水を構成する分子(H2O)の配列が変わり、氷という結晶になるのです。お米を買って帰ってきて、袋から米びつにお米を流し込んで、それが満杯になったとします。でも、米びつをトントンと数回叩けば、その上からまたお米を入れられるようになる。中の米粒どうしがぎゅっと詰まったからです。水が氷になるのも、同じようなものです。氷点下の水に衝撃を与えてやると、水分子が詰まり、配置が整うのです。この、整って密になったものを、私たちは「氷」と呼んでいます。
別の言い方をすれば、水は、物理的刺激を与えなければ、氷点下になっても凍らない場合がある、ということです。この状態を「過冷却」といいます。つくり出すのはなかなか難しいのですが、衝撃を与えないように静かに素早く冷やしてやることができれば、「−10℃」の「水」をつくることができます。
たとえば、広い容器で、砕いた氷と塩を混ぜて−20℃の寒剤をつくっておき(氷と塩を混ぜるとなぜ−20℃になるのかも興味深いところです)、そこに、常温の水をうすく張った小さなアルミカップを入れます。しばらく静かに待つと、カップの中の水は急速に氷点下を過ぎ、過冷却状態になります。このとき、カップの過冷却水の真ん中に小さな氷のかけらを落として衝撃を与えてやると、その落下点を中心に、同心円状に、水が氷へと結晶化していきます。その様子は、まるで花が開くよう。えもいわれぬ美しさです。冒頭の「おぉーっ!!」という歓声は、それが言葉にならない体験であることの、何よりの証です。この実験が成功したときには、一同、手をたたいて喜びました。(この実験はご家庭でも簡単にできますが、ここで簡略化して書いた手順以外に、成功させるためのさまざまなコツがあります。上記を参考にされる場合にご注意ください。ご連絡を頂ければコツをお教えします。)
理科の実験には、過去の天才たちの発見の驚きを追体験できるという、途方もない価値があります。「水は0℃以下になれば凍る。こうした液体から固体への状態変化を、凝固といいます。」言葉で伝えればただこれだけのことも、実験によってその凍る瞬間を目の当たりにすれば、こんなに驚きと美しさに満ちている。理科室のない山の学校でできることは限られていますが、少しでもこういう体験ができればと思っています。
中学理科のクラスでは、このような実験と、座学(質問コーナーと問題演習)に、隔週交替で取り組んでいます。
(文責 高木 彬)