「山びこ通信」2017年度秋学期号より下記の記事を転載致します。
『中学数学』2~3年
担当 吉川弘晃
今回のテーマは「手を動かすこと」の重要性についてです。
中学数学では2学期に入ると、2年も3年も(1次・2次)方程式について応用まで詳しく学習していきます。生徒の皆さんは、多少過程が複雑になっても計算そのものについてはそつなくこなしています。以前と比べるとミスも随分と少なくなりました。中学数学の重要な目標の一つは精確に作業を遂行することにある以上、この点は皆さんの努力を高く評価したいと思います。
しかしながら、中学数学で本当に求められるのは、問題文の意図や条件を正しく読み取って、それを数式やグラフに変換する力です。特に方程式が絡んでくる問題では、答えを出す計算力が必要なのは当然ですが、それにも増して、問題文を方程式の形で表現する力が必要になるのです。なぜなら、正しい方程式を立てられなければ、いかに高度な計算能力をもっていても導き出される答えは正しいものにはならないからです。
それでは、問題文を数学の言葉に変換するにはどうすれば良いのでしょうか。それは問題文をよく読むことです(教室では難しい問題については生徒さんに音読させています)。まずは、問題文を一読して、求められている答え(速さ、辺の長さ等)が何かを確認します。次に、答えを出すための方法は何だろうかという疑問を持ちながら、もう一度問題文に書かれた情報を読んでいきます。例えば、人やモノの移動に関する問題だと、① 求めるべき「速さ」や「時間」、「距離」に対してどのような文字を設定するか(xやyは何より大きくて何より小さいのか)、② 「速さ×時間=距離」という関係を念頭に置きつつ、①で置いた文字を問題文の条件からどのように方程式に直すのか、ということを考えます。また、図形の問題だと、① 求めるべき辺の長さをxと置いた場合に他の辺の長さはどのように表せるのか、② xを求めるための方程式を立てるには、問題文や図形のどの情報を使えば良いのか(四角形◯◯は正方形である、角Aは45度である等)、ということを考えます。
とはいえ、日本語と数式やグラフという2つの言葉を互いに「翻訳」する作業は一筋縄ではいきません。もし5分以上紙の上で悩んでしまったら、いや悩んでしまう前に、ノートを広々と使って図を描いてください。人やモノの移動に関する問題であれば、出発点と到着点、通過場所を結んだ線を描き、その下に人やモノの移動した距離や速さ、時間を書き込んでいくのです。人や電車、車のイラストを描いても良いでしょう。重要なのは、問題文に書かれている内容を頭のなかでイメージとして再生することなのですから。特に、図形問題では必ず自分で図を描いてください。問題文に図が添えられていることがありますが、これは一見親切で実は皆さんの思考を邪魔しています。時々、角度や長さの関係が少々、歪められた図になっていることもあります。用意された図でたまたま同じ長さに見える辺を勝手に同じ長さであると解釈してしまうことだってあります。重要なのは、綺麗に描けなくとも、自分が問題文から読み取った情報を反映した図を描くことです。そして、描いた図には補助線を入れたり、辺の長さを書き込んだりしてみましょう。その上で再び問題文を読み直せば、今まで気がつかなかった条件の意味が分かるはずです。