「山びこ通信」2017年度秋学期号より下記の記事を転載致します。
『ラテン語初級文法』『ラテン語初級講読』
担当 山下 大吾
今学期は一名の受講生をお迎えして、新たに初級文法クラスが開講されました。受講生のCatさんは、前号の「山びこ通信」に掲載された、山下太郎先生のラテン語学習の意義を説く巻頭文を読まれるなどして受講を決意されたと伺いました。岩波書店刊行の田中利光著『ラテン語初歩 改訂版』を教科書として用い、来学期までの2学期で終える予定です。普段見慣れた英語との親近性や、練習問題で見られるラテン語ならではの修辞技法など、教科書の説明だけでは得られない事項をご指摘するよう努めています。
Cuさんとの講読Aクラスはキケローの『老年について』を今学期初めに無事読み終え、現在はその姉妹篇『友情について』に取り組んでおります。古典中の古典ともいうべき作品を原典で完読され、Cuさんは大きな自信を得られたようです。『友情について』は構成その他の点で関連の深い作品ですので、これまでの経験が大いに生かされるものと思われます。これまで通りの堅実な姿勢で読み進めて頂ければと願っております。
CacさんとのBクラスでは引き続きホラーティウスの『諷刺詩』の第2巻を読み進めています。現在は全8編の折り返しに当たる第5編に入りました。5編の内容は、『オデュッセイア』11歌、冥府行での予言者テイレシアースとオデュッセウスとのやり取りを引き継ぐ形で、同時代のローマの遺産相続、あるいは遺産横領の話題を面白おかしく絡めていくというもので、諷刺家ホラーティウスの面目躍如といった感があります。特に18-22行にかけての英雄らしからぬオデュッセウスの変節ぶりは出色の出来栄えで、きちんとホメーロスの詩行を踏まえた言い回しになっているのに加え、なによりそのスピード感も相まって抜群の効果を上げています。
Cクラスでは今学期から受講生のCiさんのご要望で、講読作品はキケローの『義務について』に変更となりました。その冒頭部では、アテーナイで勉学を続ける息子マルクスに対して、哲学と弁論双方に、どちらか一方に偏ることなく熟達するよう説いています。ギリシアでは現れなかったその模範的人物こそ父であるキケローその人です。プラトーンやアリストテレース、デーモステネースといった錚々たる偉人の名を挙げながら、特に文体の点で、哲学弁論双方に通暁したという自身の功績を誇らしげに語る彼の姿は、語り掛けている息子のみならず、二千年以上の時と洋の東西を超え、全人的教養を体現する第一の鑑として、私たちの目の前に聳えています。