「山びこ通信」2017年度冬学期号より下記の記事を転載致します。
『かず』(2〜3年)
担当 福西 亮馬
前号の山びこ通信でもお伝えした通り、この時期は「かけ算」との出会いを大事に、その取り組みをいろいろと重ねています。計算問題や文章問題をした後には、アドリヴで多少のゲーム性を持たせながら、「かけ算」で解決できるようなスペシャル問題を出しています。私なりの「どうやったら算数で遊べるか?」の例です。たとえば3つのサイコロの積、長方形のマス目の数、トランプの手札から加・減・乗で任意の数量を表現する、ということをしました。
九九の表を習い終えた最近では、かけ算をする時には、「順序交換(をしてもよいこと)」を意識しています。たとえば、3つのサイコロの積を計算する時、どのサイコロから先にかけていっても構いません。
またたとえば、九九の表から28を探し出す時、縦にした4の段にも、横にした7の段にも見つかります。「4×7」と「7×4」はどちらも28で正解です。これは長方形の面積が「縦×横」でも「横×縦」でも同じだということに対応しています。すなわち90°回転(縦と横の入れ替え)という操作は面積を不変に保ちます。この幾何の事実に、生徒たちは今は無意識にですが、かけ算を通して触れています。大事にしたいところです。
1年生の頃に「りんご4個とみかん7個は合わせていくつ?」に対して、「りんご」と「みかん」を同一視して、「4+7=11」としました。そして今、「りんごを4個ずつ7人に配るにはいくつ必要?」に対しても、「個」と「人」を同一視し(個×人の長方形を作り)、「4×7でも7×4でも答が出せる」というわけです。ここではより抽象的な思考に慣れようとしているのであって、たとえそれと分かっていなくても体験として応援すべきです。「個数が問われているから」あるいは「小学生だから」という理由で「4×7でないといけない」という、小学校独自のルールは外してもよいと私は考えます。
かけ算の順序交換に慣れていないと、つまずきやすいことも出てきます。たとえば、7×100は「7の後ろに0を2つ付ければいい」わけですが、そのルールだと、100×7にはどうしたらよいでしょう? これぐらいならまだとっさに700と答えられると思いますが、次に、10×7×100になると、ちょっと困ると思います。これは7×10×100と変換するとすんなり解決します。
ところで、足し算でも、4+7=7+4のように順序交換は可能です。このことから、小学生たちの頭にはいつしか、かけ算と足し算とが「似ている」「でも違う」「何で?」と「?」ランプがともり始めると思います。この疑問を温め続けると、きっと後々いい学びに出会えると思います。足し算とかけ算が似ているのは、スカラーと呼ばれる数の性質です。そして順序交換がいつまでも可能とは限らないという反省を促されるのは、ベクトルや行列といった「拡張された数」に出会う時です。それまではむしろ「かけ算は交換可能だ」ということに驚きをもって接し指導する方がよいでしょう。
とはいえ、そんなに難しく構えなくても、生徒たちはまずは自分のやりたいように計算するでしょう。それはそれで具体的な過程として見守りつつ、折を見て、より抽象的でより本質的な理解を促すことも忘れずにしていきたいと思います。