「山びこ通信」2017年度冬学期号より下記の記事を転載致します。
『れきし』
担当 吉川 弘晃
「れきし」クラスでは、何よりもまず日本語で書かれた文章を正しく「読む」ことを重視しています。「読む」というのは単に目で追って分かったふりをすることではありません。しっかりと声を出して抑揚をつけて読み、分からない箇所、しっくりとこない箇所を探して、辞書や事典を用いて調べ、それでも理解できない点は教室で質問・議論する。
なるほど、興味のあるテーマについて次々に本を紐解いて知識を増やしていくことほど楽しいことはないでしょう。けれども、もっともっと読まねばと焦るうちに、知らないことを知るために行っていた読書がいつの間にか、知っていることをただ確認するための読書になってしまうことは少なくありません。「こんなこと常識じゃないか」「知ってる知ってる」。こうした危険信号が出てきた時に効果を発揮するのが、一筋縄ではいかない本です。
昨春より、みんなで読み進めてきたのは今谷明『戦国の世』(岩波ジュニア新書、2000年)、200頁ほどの小著ながら、扱う内容・文体・語彙共に、「ジュニア」の域を優に超えるものです。それにもかかわらず、本書は教科書としてこのクラスの趣旨に大いに適うものであった思います。なぜなら、既存の知識や語彙だけで読めるような本とは違って、こうした読者に媚びない本は、読者側に大きなエネルギーを課すので、本気で取り組めば真の意味での「読む」訓練になるからです。
何事もトレーニングというのは今の実力よりも少々高い負荷をかけねば意味がありません。何度読んでも分からない箇所、理解できない論理が出てくるのは、ちゃんとトレーニングをしている証拠なのです。そこで浮かんだ多くの? を大事にして書店や図書館へ、博物館や資料館へ、そして遺跡や城跡といった実地へ足を運んでみてください。その? はきっともっと大きな! へと変わるはずです。