山びこ通信(2012/3月号)より、クラスの様子をお伝えします。(以下転載)
『漢文入門』 (担当:木村亮太)
漢文入門クラスでは、冬学期の始めからは曹植(そうしょく)「洛神賦(らくしんのふ)」(『文選(もんぜん)』巻 19)を、ちょっと長めのお正月休みをはさんで、2 月からは曹操(そうそう)、曹丕(そうひ)の楽府(がふ)(詩の一種)を読んでいます。
K さんの「『三国志』に登場する曹操父子の作品を読んでみたい」という声から、これらの作品が選ばれたのですが、秋学期は「散文」が中心で、詩や賦のような「韻文」に触れる機会も少なかったので、ちょうど良かったように思います。
「洛神賦」は、曹植が洛陽の都から自分の領地へと帰る途中に、洛水(川の名前)のほとりで出逢った美しい女神に恋をするという幻想的な作品です。古来、中国には、川や湖のほとりでの女神と邂逅をテーマにした作品は多くありました。曹植はそういった古典を素地に「洛神賦」を作り、当時の文学界の旗手となりました。
この作品が愛されたことを示すものとして、東晋の画家・顧愷之(こがいし)が描いた「洛神賦図」があります。これは、「洛神賦」の各場面を同じ一枚の画面のなかに描いた絵巻物で、クルクルとスクロールしていくことで、次々に移り変わるシーンを楽しめるという作りになっています。現在では、宋代の模写しか残っていませんが、その写真が載った図版集があったので、ある程度まで文章を読み進めたあと、私たちも図版を見てみることにしました。
文字と絵とを対照させてみると、イメージしていたとおりの場面もあれば、そうでない場面もあり、文章の理解にも新たな発見がありました。例えば、「六匹の龍がおごそかに首をそろえて(車を牽く)」というシーンでは、定規で引いたように横一列で龍が描かれていました。一方、「軽舟に乗って流れをさかのぼる」のシーンに描かれていた「軽舟」は、随分と豪華な二階建ての屋形船でしたし、また、曹植と女神、二人きりで過ごしたと思っていたシーンでも、曹植のお供の者たちがどこに行くにも付きっきりだったのには驚きました。
「洛神賦」は比較的、長い文章だったので、次はちょっと短めのものを、ということで、二月からはぐんと短く、曹操父子の詩を多く読むことにしました。短く、定型の「詩」という文体を選んだことで、ひとつ新しいことに挑戦しています。それは、句読点のない、「白文」に、自分で点を置くところから読み始める、という試みです。
私が漢文入門クラスを担当するようになって初めて扱った『説苑』では、句読点やかぎかっこのほか、人名・地名に傍線の付いているテキスト(標点本)を使いました。それから、傍線のないものを使ったことはありましたが、句読点のないテキストはまったく初めてです。慣れるまでの間は苦労することもあるとは思いますが、文字だけから意味を考えて、もっとも相応しいところで点を切ることができるようになると、また新しい楽しみが増えるとともに、自分で読める本の幅が一気に広がっていくと思います。(文責 木村亮太)