『西洋の児童文学を読む』(対象:小学生新5年~新6年)

2017年4月から始まるクラスのご紹介です。

『西洋の児童文学を読む』(対象:小学生新5年~新6年)

木曜16:20~17:20 講師:福西亮馬(予定)

コッローディ、エンデ、プロイスラー、ファージョン、トラヴァース、サトクリフ、カニグスバーグ、トンケ・ドラフト、アリソン・アトリー、フィリパ・ピアス、ル・グイン……。

もちろん他にも児童文学の作家はもっといることでしょう。そうした名前を聞くだけでもう胸がいっぱいになって、その作品群とそれを読んだ時の周囲の記憶とを彷彿とする人がもしいるとしたら、ぜひ挙手をお願いいたします。私もその中の一人として、名乗りを上げたいと思います。

本を読み通すこと、そしてそのことに共感する他者と出会うこと、その互いの鏡映しによって、精神のより深いところに種を植え、根を生やせるよう、また作者と永遠に対話できるようになること。そのようなクラスを理想として目指します。そして、同じ作者の異なる作品を読むことによって、読書体験がより深まることを望みます。そこで当初は次のようにテキストを指定します。

1 トンケ・ドラフト『王への手紙』(西村由美訳、岩波少年文庫)

2 トンケ・ドラフト『白い盾の少年騎士』(西村由美訳、岩波少年文庫)

3 エンデ『はてしない物語』(愛蔵版)(上田真而子・佐藤真理子訳、岩波書店)

4 エンデ『モモ』(愛蔵版)(大島かおり訳、岩波書店)

最初のテキスト、トンケ・ドラフト『王への手紙』は、エンデ『はてしない物語』とほぼ同じくらいの分量です。オランダ人の女性作家によって1962年に発表された、日本ではまだまだ隠れた名作です。『はてしない物語』(1979年)よりも10年以上前の作品になります。

さて、『王への手紙』は、各章10ページ前後という大変抑制の効いた構成で、テンポよく、物語の緊張の糸がつむがれます。一度読みかけたらおそらく最後まで読んでしまうことでしょう。その読んで感じたことを報告し合うことが、クラスでの中身となります。

ここで少し物語の内容に触れておきます。

あと一夜で騎士になれるティウリは、最後の課業を、「助けをたまわりたい。生死の件にかけて!」という声で妨げられます。そして明日騎士になることよりも、今騎士の行いを果たすことを彼は選択し、物語は展開します。世間の目からは逃亡者である彼の本当の立場と葛藤とを知っているのは、読者たちと、作品中の心ある傑物たちだけです。どの局面もティウリが生まれて初めて直面した困難です。最善を尽くすとはどういうことか。ティウリはその都度、選択に悩みます。けれども選択したらもう、決して後ろを振り返りません。多弁を弄さない騎士たちと若いティウリとの格調高い会話は、おそらく読者をハラハラさせ、何度も「『手に汗握る』とはこのことだ」と思わせることでしょう。

私はこの作品中で、関守の領主と対峙する場面が一番気に入っています。まるで『勧進帳』のような思いがして、何度もそこを読み耽ってしまいます。ティウリは密命を帯びているために関所破りを敢行しますが、そこの関守の領主が有能(そして公正)であるがゆえに捕まってしまいます。ティウリはどのように説得の道を見出すのでしょうか──。その関守の領主は最後に一言、こう言います。

「そなたは、わたしを信用する勇気があった。こんどは、わたしがそなたを信用しよう」と。

良いものを「良い」と言って共感され、好きなものを「好き」と言い合えることで、互いの人生を信じる心を応援したいと願っています。