0203 山の学校ゼミ(調査研究)

浅野です。

 

カドカワ(角川書店)のお家騒動について詳しく調べてみると、おもしろいことがわかりました。

 

まずはWikipediaの記述です。角川書店 – Wikipedia

 

兄の春樹の言い分は角川春樹『わが闘争―不良青年は世界を目指す』(イーストプレス、2005)のpp.109-119に書かれています。弟の歴彦が自分を追い出そうとしたから先に弟を追い出したということです。

 

弟の歴彦の言い分は角川歴彦「兄・角川春樹を許した日」(文芸春秋71巻12号1993年12月、pp.354-365)に書いてあります。昔はいい兄だったのにある時からおかしくなったというような内容です。

 

第三者の記述として、岩上安身「誰も書かなかった「角川家の一族」」を参照しました。以下の部分がわかりやすかったです。http://web.archive.org/web/20160302033245/http://www.hh.iij4u.or.jp/~iwakami/kado1.htmから取りました。

 

 本社のベテラン編集者の一人、B氏はこう語る。

「もともと角川書店は、春樹社長、歴彦副社長の2人が車の両輪となって引っ張ってきた会社なんです。2人とも毀誉褒貶の激しい人物で、社長はワンマンで傍若無人、副社長はケチで労務管理が厳しいといわれてきた。その反面、社長の斬新なアイデアとカリスマ的なリーダーシップ、そして副社長の堅実な経営手腕が互いの欠点を補い合って会社に成長をもたらしてきたんです。このことは衆目の一致するところでしょう」

問題は両者のパワー・バランスである。今までは春樹社長の主導してきたメディア・クロス路線、エンターテインメント中心の文庫の大量販売路線がまがりなりにも当たっていたからよかったが、近年、この路線の業績が急速に悪化してきた。映画だけでなく、文芸誌、文庫の売り上げも低迷が続く。逆に、歴彦氏が育ててきた『ザ・テレビジョン』『東京ウォーカー』『シュシュ』といった情報誌分野、そしてメディアオフィスの『コンプティーク』をはじめとするコンピューター・ゲーム・マニア向けの雑誌群は急成長し、大きな利益を生み出すに至る。こうなると、自然にパワー・バランスが崩れる。

「従来の春樹路線の行く末に危機感を抱いていた歴彦氏は、自分の業績を背景に、兄に忠告を申し入れていた。春樹は表面上は受け入れていたようにみえましたが、内心不満と不安を抱いていたのでしょう。そういうところに、兼ねてから『俺の後継者』と広言してはばからなかった息子の太郎が入ってきて、怪しくなってきたパワー・バランスをいっぺんにひっくり返す大騒動が起きるんです。いってみればあの事件の本質は、春樹・太郎による逆クーデターなんですよ」

 

最後に大塚英志さんの分析を見ました。大塚英志緊急寄稿「企業に管理される快適なポストモダンのためのエッセイ」 | 最前線 – フィクション・コミック・Webエンターテイメントより抜粋します。

 

角川兄弟の対立で春樹が不幸だったのは、弟には見えていて弟の許で出来上がりつつあったインフラがそれまで自分の「角川商法」を支えていたものと全く異質であったことだ。恐らく彼はそれを理解できなかった。作者という神の死んだ小説など、彼には信じられなかったはずだ。だから春樹は時代を拒み、弟を追放したが、それはメディアワークスという、次の局面により最適化した組織を生んでしまったことは皮肉である。その歴彦が執着したものはwebではYouTubeでありセカンドライフであり、モジラ財団である。そこにドワンゴも含まれる。それらは全て参加型のインフラ、あるいは参加をより容易にするインフラだと思えばいい。TRPG、コミケも含め、参加型のインフラを自社のインフラに導入していくという彼の思想からいえば、「ニコ動」との一体化は当然なのである。

 

さらに視野を広げると次のような感じです。【第1回】角川歴彦とメディアミックスの時代 | 最前線 – フィクション・コミック・Webエンターテイメントからの抜粋です。

 

このようにして’80年代において教養の時代、大衆の時代、サブカルチャーの時代の三つが劇的に交代して行ったのである。
この連載では、この「教養」をめぐる三つの時代の交代劇を’80年代に於ける一つの出版社とその経営者の一族、即ち、角川書店と角川源義、角川春樹、角川歴彦の3人の父子の出版人としての姿と、その相克を追うことで描き出す。
何故、角川書店なのか、といえば、この時代の変遷に、この出版社が良くも悪くも最も忠実であったからだ。
実際、「角川書店」ほど、そのイメージが変化した出版社は珍しいのではないか。

(中略)

今、この三つの時代をその担い手と、彼らが関わった雑誌メディアと代表的な角川文庫作品を並列してみる。

角川源義と『短歌』『俳句』、堀辰雄『風立ちぬ』。
角川春樹と『野性時代』、横溝正史『犬神家の一族』。
角川歴彦と 『コンプティーク』、水野良『ロードス島戦記』。

 

このように考えると、お家騒動というより大きな文化的な変化のように見えてきます。