「山びこ通信」2016年度秋学期号より下記の記事を転載致します。
小学生『歴史』
担当 吉川 弘晃
前学期より引き続き、今谷明『戦国の世』(岩波ジュニア新書、2000年)をテキストにして1年間かけて室町末期から戦国時代にかけての日本の歴史を学んでいます。「ジュニア」向けとしてあまりに難解な文章や専門用語、そして何より複雑な歴史の展開に生徒さんは毎回、戸惑いの顔を見せます。同じ国なのに地域や身分によって服する法律が異なる、関東と関西の勢力争いの展開は異なっているが実は深く関係している、応仁の乱からすぐに戦国の世になったわけではない…。しかし、それぞれの持ち前の好奇心と国語力をもって何とか石に噛り付いているので、講師としても非常に頼もしい限りです。
歴史の構造を理解するのに因果関係の要素は欠かせませんが、それ以上にこの授業を通じて学んで欲しいのは、何か一つの原則だけで全てを説明することは出来ないこと、もしそうしようとすれば必ず例外や逆説の事態が生じてしまうこと、そして過去の事例に現在の常識や価値観を当てはめてはいけないということです。情報の氾濫や価値観の多様化が一般生活の次元にも入り込む現在、一筋縄ではいかない問題に対処する力を幼い頃から育む必要性はますます高まっています。絡まった結び目を一刀両断するのではなく、まずはじっくりと多方向から観察する、その上で解くか断ち切るかを決めねばなりません。
テキストを読むだけでなく、生徒さん自身による発表の機会も前学期と同様、設けています。みんな、それぞれの視点から問題を設定して自分の言葉で精一杯、観察しようとしている様がひしひしと伝わってくる時間でもあります。これから教科書は後半部の戦国大名の話に入っていき、ますます生徒さんの?の数は増えていくことでしょうが、一つひとつの?を大事にしながら歴史に親しんで欲しいと思います。