『歴史』クラス便り(2016年6月)

「山びこ通信」2016年度春学期号より下記の記事を転載致します。

『歴史』

担当 吉川弘晃

生徒さんの強い要望により、今年度から開講されたクラスです。集まってくれたのは小学低学年から高学年までの4人、それぞれが歴史に対する幅広い興味と知識をもっています。授業では、単に歴史的な知識の量を増やすのではなく、一つひとつの事象を、「比較」や「関係」の方法を用いて考えてもらい、一つひとつの知識が大きなまとまりの中で繋がっていくような学習のあり方を身につけてもらうことを目標にしています。

授業形式は、インプットとアウトプットの組み合わせです。前者では講師が指定した教科書(小学生高学年~高校生向け)を全員で講読し、そこに講師が解説を加えながら、生徒は質問や議論を展開します。後者では教科書の講読で得られた論点の中で、生徒はそれぞれ興味をもったものを選んで、 自分なりの問題を立て、図書館などで「調べ学習」を行ったうえで、教室で発表してもらいます。

今年度は、戦国時代に興味のある生徒が多いので、今谷明『戦国の世』(岩波ジュニア新書、2000年)を冒頭から毎回1節ずつ、丁寧に読み進めています。本書は日本中世史の大家による室町時代後期から安土桃山時代を扱った概説書ですが、文章中の表現や言い回しは全体的に小学生にとっては少々難解です。そこで、必ず生徒さん自身に音読してもらい、分からない言葉や用語については、国語辞典や百科事典を使って、調べてきてもらいます。その後、背景知識について講師が解説を加えた上で、生徒さんは与えられた知識や設定をもとに「自分だったらどうするか」とシミュレーション的な思考を行います。信長や秀吉といったビッグネーム中心の読書経験では脇役となる町人・農民、敵役となる寺社集団、彼らがなぜそのように動いたか、もしくは動かなかったのか、という問題を当事者として改めて考えることで、「上から」、もしくは「中央(畿内)」の視点のみからでは見えない社会の全体像へと歴史的展望を広げることが可能となります。また、授業の中で各自が疑問に思ったことを調べてきてもらい、三分程度でその成果をみんなの前で発表するというアウトプットも適宜、行っています。

今後のクラスの方針としては、知識の詰め込みよりも、「知っている」つもりである知識の再確認に重心を置くつもりです。それは巷のクイズ番組のように用語の教科書的説明を瞬間的にできるようになることではありません。むしろ、「誰が」「いつ」「どこで」「何を」「なぜ」「どのように」・・・これら一つひとつの問題について、粘り強く考えて自分の言葉で表現できるようになることです。そのためにまずは、考えるための技術(話の聞き方、本の読み方、文献の調べ方、発表のやり方)を少しずつ学んでいくことからでしょう。