「山びこ通信」2015年度冬学期号より下記の記事を転載致します。
『ラテン語初級講読』(A・B・C・D)
担当 山下大吾
今学期は前学期まで開講されていた土曜午前の文法クラスが、時間割もそのままで講読Cクラスに「昇格」致しました。その結果講読クラスのみ4つという贅沢なスケジュールとなっておりますが、各々受講生はお一方のみです。いずれも文法を一通り終えられた方でしたら受講可能ですので、興味を持たれた方は是非ご連絡ください。
Aクラスではキケローの『アルキアース弁護』の読了が間近となってきました。弁論の始めで繰り返された、人間の叡智に関わるあらゆる営みを支え結びつけるキーワードであるhumanitasを、キケローは詩人を弁護する最後の段階で改めて切り札として用いています。なおこの授業では受講生Aさんのご希望もあり、文法の復習も合わせて行っております。
Bクラスは前学期途中から取り組み始めたホラーティウスの『諷刺詩』を講読中です。諷刺というジャンルの性質上、先の『書簡詩』とは些か趣の異なるスタイルとなり、彼の代名詞とも言えるaurea mediocritas「黄金の中庸」から少しく脇にそれ、その筆鋒も度が過ぎる場合がまま見られるようです。このようなテクストを初歩の段階で教授する際の古典学の大胆な対処法も含め、Caさんはそれらを鷹揚に楽しんでおられるご様子です。
Cクラスではキケローの『老年について』を冒頭から読み始め、現在6節まで進みました。Cuさんは文法を終えられたばかりですが基本に忠実、文字通り一語一語の解読を心掛けておられるばかりでなく、註釈にも丁寧に目を通され、毎回充実したノートを作成されています。26節の「日々何かを学び加えながら老いていく」という賢人ソローンの言葉に触れるその時が今から楽しみです。
Dクラスではおよそ2年かけて取り組んできたキケローの『友情について』を読了し、現在はCiさんご自身のご関心もあり『トゥスクルム荘対談集』を読み進めています。古典文学史などで必ず取り上げられる、ラテン文学やローマ世界を支える重要な理念の結晶の一つvirtus「美徳」。『友情について』の最終部で二人の若者を前にその価値を讃えるラエリウスの言葉は、この作品脱稿後まもなくして迎えることになる悲劇的な人生の結末も相まって、キケローその人の白鳥の歌として、不滅の輝きを放ちつつ読む者の胸に響き渡ります。