山びこ通信2015年度秋学期号より下記の記事を転載致します。
『イタリア語講読』
担当 柱本 元彦
三名の読書会というかたちで続けています。ダンテの『新生』にもまして苦労しながら、三十篇ほどペトラルカの詩を読んだ後、一息つこうと思い、比較的簡単な散文を取り上げました。それほどこだわる必要もないのですが古典と関係のある路線で、シモーヌ・ヴェイユの『ギリシアの泉』から、アンティゴネとエレクトラを解説したものを選びました。原文はもちろんフランス語で、工場労働者向けに書かれた文章の翻訳ですから、ストレートな表現になっていて、きちんと守られた「時制」が文法的にみるべきところでした。国家と対峙して一歩も引かない女性を描いた『アンティゴネ』は、イタリアでは非常に好まれ、今でもよく上演されます。『エレクトラ』の主人公は、ぎりぎりまで追いつめられ、絶望に沈んだ瞬間に、ふわっと救い上げられますが、これはまさにヴェイユ自身の夢のようです。さて、学期の途中でテクストが変わることになり、次回からは、『カルヴィーノによるアリオストの狂えるオルランド』を読みはじめます。原文と解説とが見事に<ちゃんぽん>にされたこの作品は、アリオストへの格好の入り口ですが、それでもかなり長大な書物です。オルランドの素性を軽妙に語りはじめるカルヴィーノは、章を改めることもなくずぶりと第一歌に突入して行きます。まずはこの<序文>を読んでから、今後の成り行きを見ていこうと思います。