山びこ通信2015年度秋学期号より下記の記事を転載致します。
山の学校ゼミ『数学』
担当 福西亮馬
今学期で、『虚数の情緒』(吉田武、東海大学出版会)を読了しました。2013年度の春学期からスタートしたクラスなので、かれこれ2年と2学期の歳月が経ったことになります。
量子力学以降の最後の部分は、本当に大変な急勾配でしたが、ゴールにたどり着くことができました。私自身もこのテキストと授業を通して、勉強し直すチャンスを頂きました。心から感謝申し上げます。
登頂の記念に、今年度に入ってからの内容を振り返りながら、数学的な部分のみ、以下に概説します。実数xの拡張である複素数z=x+iyが、複素平面上の1点を表したところから幾何学との融合が始まりました。三角関数cosとsinの登場です。そしてオイラーの公式を介して、z=x+iy=cosωt+isinωt=eiωt(ただしθ=ωt、‖z‖=√z*z=1)と、「単位円」の上の点(角度θ=ωt)を表すという、新しい意味合いを獲得します。(等式関係がもう1段階右へと進んだわけです)。そして、それがとりもなおさず、物理で重要な「単振動」を表す微分方程式の基本解なのでした。それが量子力学の波動方程式ではさらに、解である波動関数 ψ(x,t)=Aei/ħ(px-Et)を表していくことになります。
しかし、そこでまだ終わらないのでした。この複素数であるψ(その絶対値の2乗が粒子の存在確率を表す関数)は、テキストの最後では、単位円をぐるぐる回る「複素ベクトル」とみなされます。その見立てによって、ファインマンの経路積分の鮮やかな導入的説明がなされていました。(テキスト中のこの図入りの説明は本当に素晴らしい箇所だと思います)。
このように、虚数i を通して、実に様々な見方が付与されていったことになります。虚数は「見方の取りまとめ役」でもあるのです。
この稿を書いている時点では、まだ数回の授業が残っていますが、残りの回では質問のあった不確定性原理の式 △p△x≧ħ/2を導出します。その後で、微力ですが、テキストでは触れられていなかった数学的な内容について、落穂拾いをしていこうと考えています。