「山びこ通信(2015年度春学期号)」より、下記の記事を転載致します。
『かいが』(A・B) 担当 梁川 健哲
クラスでは基本的に、生徒たちが「今日はこれをしたい」と心に抱いて来た場合、それらを実行してもらっています。そのような「自由制作」は、たとえ単発で終わったとしても悪くないと思いますが、大抵の場合そうはならず、自ら定めた「自由課題」として探求が続けられます。
例えばK君は今、歴史が大好きで、本棚から持ちだした資料をじっと見つめては、戦国武将などの人物を描くことを繰り返しています。それでも飽き足らず、架空の人物も登場し始めました。「この人は何藩、何代目藩主で、この人達は仲間で、あの人とは大老の地位を争っていて…。」物語好きな点で、彼と気の合うS君は、既に昨年度、自作漫画のシリーズものを完成させており、今年度は温めている別のシリーズや、新作に取り組む模様です。二人が語る口調も描く線も、そして人物の表情も、生き生きしています。
また、ある日は教室へ着くなり「今日は図鑑を作るの」と言って、FちゃんはAちゃんと一緒に庭に出て、咲いている薔薇を描き始めました。小さめの紙に、次々と見つけた花々を描いていきます。「私も」と言って、後から来たRちゃん、Sちゃんも画板を広げます。「鉄は熱いうちに打て」という通り、「今」その子が大事に思っていることを大事にし、まずは思いの丈を解き放って欲しいです。
何を描こうか心が定まっていないときは、話し合いながら課題を一緒に考えたり、こちらから提案したりします。ある日のクラス、室内で「木を描いてみよう」という課題に挑戦してもらいました。「先生、どんな木でもいいの?」「勿論。」「木じゃないものも描いていいの?」「いいよ。『木だけを描こう』とは言ってないからね。」「茶色ってどうやって作るんだっけ…」「さあ、どうかな?試してごらん?」赤、青、黄、白の絵の具しか使わない、というのもこの課題のルールです。「不自由に感じますか? 自由って、何でしょうねぇ…」そんな問答をしながら。
その他の日は、先述のような「自由課題」と、屋外での制作を中心に過ごしています。「外に出て、何かいいなぁと思うものを見つけようよ!」「色や形をよく観察してごらん、面白い発見があるよ!」最初に私からかける言葉はその程度で、あとは個々に応じて生き物の「観察図鑑」のかたちをとったり、風景画になったり、空想と入り混じったりしていきます。
自由はみんなが見出すものです。このクラスでは「描く」という手段を用いて。そのためには、チャレンジする気持ちも必要だということに、いつか気がついて欲しいです。私ができるのは、そのためのきっかけを作ることくらいです。この一年も、みんなの応援係に徹していきたいと思います。