福西です。
この日は中学1年生のY君とマンツーマンで、プラス、マイナスの足し算・引き算をしました。
足し算と引き算の組み合わせとしては、以下の4通りがあります。
(1) +(-A)
(2) -(+A)
(3) +(+A)
(4) -(-A)
ここで、Aは0以上の数と定義しておきます。イメージは、「もらうと嬉しいもの」です。
さて、上の計算処理で「?」となってしまうとしたら、それは、次の事が原因です。
ズバリ、「かっこがあること」
です。
かっこの処理が面倒という一面も大きいですが、それよりもっと根本的な問題は、次の点です。
「かっこを仲立ちとして、-1×-1のようなマイナスのかけ算が隠れていること。そしてその『マイナスのかけ算』についてはまだ習っていないこと」
です。
習っていないことを暗にしようとしているわけですから、そこで混乱する生徒が出てきても、実はおかしくないわけです。
なので、ここでは、どうやってその「かけ算」という言葉を使わずに、(4)を翻訳するかということが課題になります。
私は、授業では、イメージ路線でいきました。
(1)と(2)は、見ての通り、同じ答になります。
(1) +(-A)=「悲しみ が 増える」 → と、「悲しい」 →だから、-A。
(2) -(+A)=「嬉しさ が 減る」 → と、「悲しい」 →だから、-A。
結果、「-」は、( )の前後にある「+」の存在を無視してもよいことが分かります。
(私の中にあるイメージとしては、「-」は、「+」の壁を「すり抜ける」)
(3)と(4)も実は同じ答になります。
(3) +(+A)=「嬉しさ が 増える」 → と、「嬉しい」 →だから、+A。
(4) -(-A)=「悲しみ が 減る」 → と、「嬉しい」 →だから、+A。
躓きの石となるのは、やっぱり(4)ですが、「悲しみの方向を逆にする」「悲しみをはね返す」ようなイメージができあがれば、「頭」での理解に加えて、「感情」も納得できると思います。(授業では割とラディカルに「借金チャラ」とか、「ツケでした買い物の借用証書を破る」といった比喩を用いていました。その方が分かりやすいので)。
ここでの注意は、誰にとっての得かということで、あまり頑張りすぎて、「相対的な話」を持ち込まないことです。
「マイナスの数にとってのプラスはマイナスが減るから損である」とか、そういう風に考えると、逆にややこしくなります。
あくまで一方的な基準から(正に立場を固定して)考える方が、ここでは楽です。
Aを「0以上」の数にしたのは、そのためです。
数直線で言えば常に右方向が「正」で、「正」の立場から考えることです。
以下、「のび太基準」でイメージを焼き直してみました。
(1) +(-A) 悲しみが増える = スネ夫 (に借用証書(-A)を書かされる)
(2) -(+A) 嬉しさが減る = ジャイアン (に漫画(+A)を取られる)
(3) +(+A) 嬉しさが増える = しずかちゃん (にケーキ(+A)をもらう)
(4) -(-A) 悲しみが減る = ドラえもん (に秘密道具で借用証書(-A)をチャラにしてもらう)
(1)と(2)は、悲しい体験。
(3)と(4)は、嬉しい体験。
その結果、次のような法則が得られます。
かっこの中と外が、
異符号であれば「-」
同符号であれば「+」。
ただし、ここまで一度に圧縮してしまうのは、ちょっと欲張りかもしれません。
もしこの法則が、頭では理解してもまだ感情が納得しないようであれば、別に無理する必要はありません。
素朴にさっきの上のジャイアン・スネ夫のイメージで、その都度考えればいいと思います。
【練習問題1】
(1) (+3)+(-5)=(スネ夫)=3-5=-2
(2) (+1)-(+7)=(ジャイアン)=1-7=-6
(3) (+1)+(+1)=(しずかちゃん)=1+1=2
(4) (+4)-(-7)=(ドラえもん)=4+7=11
左の第一項がマイナスの場合でも、話は同じですが、ちょっとイメージが必要です。
-3-5
の計算で、3と5を見た瞬間、
5-3
をして、
-2と間違える可能性があるからです。
マイナスにマイナスを重ねる、つまり「悲しみ」のあとにまた「悲しみ」がやって来る
というイメージで、
-3-5=-8
とします。
【練習問題2】
(1) (-3)+(-5)=-3-5=(悲しいこと続き)=-8
(2) (-1)-(+7)=-1-7=(悲しいこと続き)=-8
(3) (-1)+(+1)=-1+1=(悲しみと嬉しさが同じなので)=0
(4) (-4)-(-7)=-4+7=(悲しみより嬉しさが勝っているので)=3
【補足】
実際の計算では、以下のように、なるべく早い時期から、( )を付けるのを(4)の場合だけにすることに慣れた方がいいと思います。
学校
(1) (+3)+(-5)
(2) (+3)-(+5)
(3) (+3)+(+5)
(4) (+3)-(-5)
実際
(1) 3-5
(2) 3-5
(3) 3+5
(4) 3-(-5)
(1)と(2)は、( )を使ってくどく説明しない方が、小学校からの自然な流れで、かえって分かりやすく思います。(注参照)
(3)は小学生の時の計算そのままです。
よって、(4)にのみ、( )をつけています。
私の考えですが、上のような場合では、( )は負の数を意識させるためではなくて、「この時だけは符号が反転するので注意せよ」という意味にとどめるのが実際的です。その方が混乱が少ないと思います。
(注)
ただし、(1)と(2)では、演算結果に要請される「負の数」というものが、「すでに存在している」ものとして考えています。
「ほら、天気予報でも、-2℃って見たことある? 0℃から2℃下がってたら、-2℃。ただそれだけ。温度計でも見たことがある通り、0-2=-2、ほら簡単!」(同じく3℃から5℃下がれば3-5=-2で、何も難しくない!)
このように、負の数を単に「0からの不足を数えている」ものとして扱い、さらっと「小学生でした計算の延長である」と言い切った方が、学習時間を半月分ぐらいは節約できるように思います。(わざわざ、3-5=-(5-3)と書き直すことを練習するのではなくて…)
そして、計算の結果が「-」であることの納得については、温度計をより抽象化した、数直線を使って、
「目で見てわかる」
方がいいでしょう。
Y君が、
「数直線って、けっこう大事なんやな」
といみじくも言っていました。
ただし、授業では、学校のやり方と違う教え方を強調しすぎしても、かえってダブルスタンダードと言うか、中学生に混乱を与えてしまってもいけないので、そこは注意しています。極力その生徒に合った比喩で、学校のやり方に沿うようにフォローした上で、折に触れて、「そこは根を詰める必要はないよ」というメリハリの情報を伝えたいと考えています。(メリハリが見えれば、他に頑張れる部分も出てくるので)。