福西です。素話をしました。
ギリシャ神話より。ペガススとベレロポンという英雄のお話です。1年生たちと、「自分やったらこうする!」と盛り上がりました。
以下の文章がそれです。誇張が入っていますが、ご了承ください。いつか生徒たちが自分たちでも、より詳しい話を読むようになってほしいと思い、そのきっかけとして話しました。
『ペガススとベレロポン』
むかし、ギリシャのえいゆうペルセウスは、メデューサ(かみの毛がへびでできていて、見たものを石にかえてしまうかいぶつ)をたおしました。そのとき、メデューサの血がじめんにおちて、そこから、白い馬がとびだしました。これがペガススです。ペガススは大きなつばさをもっていて、空をとぶことができました。
さて、ギリシャにもうひとり、ペルセウスとおなじぐらいつよい、ベレロポンというわかものがいました。ベレロポンがティリンスという国に、お客としてまねかれていたころ、あることがげんいんで、じぶんのしらないうちに、ティリンスの王さまのうらみをかってしまいました。
ティリンスの王さまは、「このてがみを、リュキアの国の王にわたしてほしい」と、ベレロポンにたのみました。じつは、このてがみには、こうかいてあるのでした。
「このてがみをもってきた、ベレロポンというわかものは、わたしの国でたいへんわるいことをした。おまえのところで、どんなりゆうでもいいから、てきとうにこじつけて、ころしてほしい」
と。
そんなこととは、つゆしらず、心のまっすぐなベレロポンは、そのてがみをそっくりそのまま、リュキアの王さまのところまでとどけました。
リュキアの王さまがてがみをよむと、さっと、かおいろがかわりました。なぜなら、「目のまえのわかものをころしてほしい」とかいてあるのです。そこで、リュキアの王さまは、とっさに一つのほうほうをおもいつくと、ベレロポンにむかって、こういいました。
「このてがみには、おまえがひじょうにやくにたつ、りっぱなわかものだから、わたしの国でこまったことがあったら、そうだんせよ、とかいてある。ベレロポンよ、じつはわたしの国では、キマイラという、とんでもないかいぶつがあばれていて、こまっておる。それをたいじしてはくれぬか」と。
「しょうちしました。」
と、心のまっすぐなベレロポンは、すぐにいいました。それをきいて、リュキア王はほっとしました。なぜなら王は、まさかベレロポンがキマイラをたおせるとは、おもっていなかったのです。
というのも、キマイラというかいぶつは、ライオンと、ヤギと、ヘビの三つのあたまがあって、ライオンの口からはものすごい火をはくのでした。
キマイラがきょうてきであることをしって、ベレロポンは、毎日、「どうかわたしに、キマイラをたおす、方法をおさずけください」と、ある女神に、いのりをささげました。それはアテネという、『ちえとわざの女神』でした。
アテネは、くもの上から、毎日、ベレロポンのしんけんないのりをきいて、なんと心のまっすぐなわかものだと、かんしんしました。
そこでアテネは、いのりつかれて、ねむってしまったベレロポンのゆめの中にあらわれると、こういいました。
「心のうつくしいベレロポンよ。キマイラをたおすには、まずペガススという、空とぶ馬を手にいれなさい。これがその馬をのりこなすための手綱(たづな)です」
と。
ベレロポンは、うつくしい女の人から、金色の手綱をうけとったところで、はっと目がさめました。みると、ベッドの上に、ゆめでみたのとおなじ手綱(馬のくびにつけるひも)がありました。それで、ゆめがほんとうだったのだと知りました。
ベレロポンは、さっそくペガススをさがすたびにでました。そしてついに、ある山のなかで、白いつばさのはえた馬をみつけました。ペガススは、ちょうど草をたべているところでした。
そこで、岩かげにかくれながら、ゆめのおつげでもらった手綱を、ペガススの上へなげました。ペガススは、人のけはいにおどろいて、とびたとうとしましたが、手綱の力にとらわれて、またおとなしくなりました。そしてベレロポンがせなかにのることをゆるしました。
ベレロポンは、さっそくペガススにのって、空へまい上りました。ベレロポンが手綱をさばくと、ペガススは、じぶんのおもいどおりに、かるがるととびまわりました。ベレロポンは、これならキマイラにかてるとおもったのでした。
そしていざ、キマイラのいる山へ、とんでいきました。
ベレロポンはそれまでにも、キマイラをたおすにはどうしたらいいかを、ずっとかんがえていました。そして、たいようを背にしながら、ま上から、きゅうこう下をする、という手をおもいつきました。
こうすれば、キマイラがもし、きづいて、ベレロポンのすがたをみようとしても、たいようの光がまぶしくて、はっきりとみることができないからです。
しかし、それだけでは、まだかてないとおもって、ベレロポンは、じぶんのやりのさきに、とくべつに大きな鉛のかたまりをつけておくことにしました。
もしキマイラが火をはいてきても、これをキマイラの口につっこむつもりでした。そうすれば、鉛が火でとけて、はんたいに、キマイラの口のなかをやいてしまうだろうとかんがえたのです。
さて、さくせんはみごとせいこうしました。
キマイラが、ペガススにのってきゅうこう下してきたベレロポンにきづいたときには、たいようがまぶしくて、すでにおそかったのです。それでもキマイラは上をむいて、口を大きくひらき、ひっさつの火をはき出しました。
けれども、その火は、ベレロポンのところまでは、とどきませんでした。
なぜなら、ベレロポンが、あのやりを、キマイラの口のまえにつきだしたからです。
大きかった鉛のかたまりは、ベレロポンのみがわりとなって、あっというまにとけてしまいました。けれども、こんどはまっ赤にもえた、あついえきたいとなって、キマイラの口の中にながれこんだのです(キマイラの口は、空からやってくるベレロポンにむかって、ちょうど上をむいていたのです)。
とけた鉛のスープをのんで、はらの中までやけただれキマイラは、あっというまにしんでしまいました。
こうして、ベレロポンはぶじ、キマイラをたいじしたことを、リデュアの王さまにほうこくしました。まさか、そんなことができるとはおもっていなかった王さまは、そこではじめて、ベレロポンをしんのえいゆうだとみとめ、じぶんのむすめとけっこんさせました。
*
ベレロポンはそのごも、ペガススにまたがり、なんども、かいぶつとたたかって、しょうりしました。そしてたいへんゆうめいになりました。にんげんのせかいで、ベレロポンのことをしらない人はありませんでした。
するとベレロポンは、わかいころは、あれほど心がうつくしかったのに、いつのまにか、とてもえらそうになってしまいました。そしてあるとき、自分がこれまでたたかって勝ったはなしのすべてを、天上のせかいまでいって、そこにいる神さまたちに、じまんしようとおもいつきました。ベレロポンは、ペガススにのって、たかく、天までかけあがっていきました。
これをしった、ゼウスは、たいへんいかりました。そして一ぴきのアブを、はなちました。アブは、ペガススのところまでとんでいくと、そのおしりをちくっとさしました。すると、ペガススはおどろいて、「ヒヒーン!」といななき、大きくのけぞって、せなかにのっていたベレロポンをふりおとしてしまいました。
もうすこしで、天にとどくとおもって、ワクワクしていたベレロポンは、あまりにとつぜんだったので、手綱をにぎりかえすひまもなく、まっさかさまにおちていきました。
そして、じめんにげきとつしました。
ベレロポンは、さいわい、なんとかいのちをとりとめましたが、けがで、足がうごかなくなってしまいました。足がつかえないと、たたかうことはできません。ペガススにのることもできません。わかかったころのつよさは、かげもかたちもなくなってしまいました。
そして、むかしのじまんばなしをしようとおもっても、だれもえらそうなベレロポンのはなしをきいてくれる人は、いなくなりました。ベレロポンは、すっかりひとりぼっちになってしまいました。
かつて、だれ一人しらぬ人のいないほどゆうめいだったベレロポンでしたが、ひとりぼっちになってからは、足をひきずり、ひきずり、みじめにくらしたということです。