福西です。
Y君とは、点対称(回転移動)の問題をしました。学校でえらく難しいことが黒板で説明されたということで、不安があったようでした。それを解消するために、質問(攻め(笑))につきあいました。
私が中学1年のころは、点対称と言えば180度かせいぜい90度回転くらいだったのですが、Y君の学校では、もっと複雑な角度で作図したようでした。私が「きっとそれは、分度器を使って、ということじゃないかな」と言うと、「テストでは、分度器は持っていかないことになっている」という話でした。
それなので、「じゃあ、角度をコンパスと定規だけで作り出さなあかんけど、それって難しすぎひんかなあ…(仮にテストで出されたとしても、それを解くような時間が厳しくないかな…)」と、逆に、私の方が、試験に出る出ないという、そういう下世話な心配をするくらいでした。
けれども、Y君がせっかく自分でつまづきの石を見つけて、それを「何とかしたい」という気持ちで臨んでくれていたので、私もそれを克服することにやぶさかではなく、前回と2週にわたって思案し続けました。
Y君が知っていることは、垂直二等分線と、正三角形の作図です。それを使ってできないか、ということで考えました。
点対称は、Y君の好きな星の世界に例えると、「北極星のまわりを回る、星座の移動」です。
今の時期、ななめになったオリオン座とかをよく見かけますが、星座自身は形を崩すことなく、見える位置だけが変わります。
こうした星一つ一つについて言える特徴は、「北極星との距離を変えない」ということです。そして、一点(=中心)からの距離が変化しない点の集合とは、すなわち、「円」のことです。
つまり、点対称の背後にあるものとは何かというと、それは、円です。
それぞれの星(点)の一周を、省略せず、くまなく描き込めば、すべて解決します。点対称に、図形を一度に動かそうとすると、複雑な形ほどその見かけに惑わされてしまって大変そうです。けれど、一個一個の点にばらして同じ作業を繰り返せばよいことに気づけば、案外簡単に、動いたあとの図形を作図できます。
この「分割して再統合」という幾何のセオリーに、聡明なY君の頭脳は「ピカッ」となったようでした。
ここで、点対称の中心をOとし、回転させたい点をAとします。またその移った先をA’とします。
1)180度回転の場合
コンパスはいりません。
OAに定規を当て、その距離をはかります。それが3cmなら、そのままOAに定規を当てたまま、点Oの先にもう3cm伸ばします。そこがA’です。ちょうど円の直径を描きこんだことになります。
この作業を、(図形の複雑さにまどわされることなく)、個々の点において、一個一個、作業していきます。作業が終了したら、点を結び、その形が、点対称で動いた図形です。
2)90度の場合
コンパスを使います。定規の「かど」で90度を作ってもいいのですが(嘘です)、180度の垂直二等分線をひけばできます。
1 半径OAの円を描く。
2 点Aと、その反対側(1の円上)の点とをそれぞれ中心にした円を描く。(この時、その半径はOAより少し大き目にとる)
3 2から、垂直二等分線をひく(垂直二等分線が引ける理由も、あわせて理解してもらいました)
4 垂直二等分線が、1で描いた円と交わったところが、A’となる。
3)45度の場合
2)において、垂直二等分線をひく作業を2回繰り返します。そうすると45度の方向がとれます。あとは一緒です。
4)22.5度の場合
垂直二等分線を3回繰り返します。
こうすると、11.25度の回転移動もできることが分かりました。
さてこの日、焦点となったのは、
「30度回転の場合はどうするか?」
という、Y君の素朴な疑問でした。
30度と言えば、ご存知、1:2:√3の直角三角形の一つの角です。
その三角形が私の頭にはあったので、
「ルートを習ったら、いずれできるようになるから、今はまだいいよ」
と言いかけたのですが(^^;)、しかし当のY君は、垂直二等分線を駆使することで、次々と結果が得られることに気を良くしていました。
「30度もやってみたい。できるはず。よし!」
という気合とともに、残った時間のすべてをつぎ込み、作図を再開しました。
そして、上に得た結果を組み合わせて、とうとう、
45度-11.25度=33.75度
まで肉薄しました。
このように精度を高めることによって、設定した目標へと近づいていく努力は、実社会でもよく必要とされることです。大変意味のあることだと思います。
というわけで、私はその時、満足してしまいました。そして、
「30度といえば、90度の1/3やなあ。でも、任意の角の三等分線は(コンパスと定規だけでは)引けないというのが、実は証明されてて…(それをギリシャの三大不可能問題と言って云々)…」
と、またしてもY君をあきらめさせるようなことを言ったのですが(^^;)、それでも当のY君は、まだあきらめずに、考えていました。
そこで、Y君が、
「任意ってどういうこと?」
と質問したので、私は「あっ!」となりました。
そうなのです。
任意とは、どんな場合でも、という意味です。その条件を外せば、もしかしたら「特定の角については、三等分は可能かもしれない」ということなのです。
そういえば、「60度は180度の3等分だ」ということに、Y君も私も気付いたのでした。
実際、60度はコンパスと定規で作れる角度です。つまり、正三角形の角です。
正三角形を描く方法は、Y君は知っています。
「分かった!」
と、Y君が嬉しそうな声を上げました。
「ということは、60度の垂直二等分線をひけば、30度が作れる! ついでに15もできる!」
と。
それは勝利の喝采でした。
まるで青色LEDを発見した人のような気持ちがしました。
一般に無理だと言われていたことが、ひらめき(≒今ある知識の総動員)によって、できた瞬間でした。
まとめると、この日、Y君と一緒に体験した努力の型は、2通りあったと思います。
1つ目は、33.75度まで肉薄したという事実。
これを、「近似による努力」と名付けたいと思います。
そして、もう一つの方は、30度ぴったりを達成したという事実。
これを「ひらめきによる解決」と名付けたいと思います。
近似による努力も、ひらめきによる解決も、実際の社会では、どちらも大事なスキルとなります。
ひらめきによる解決がなされるまでは、近似による努力でつないで、とりあえず社会を動かすことも大事だからです。いわば、近似が新しいひらめきのための時間を稼いでくれているのだ、とも言えます。
そこにもってきて、ひらめきが、これまでの近似の努力をその際限のなさから救ってくれるのだ、とも言えます。
だから、どちらも大事です。
そしてもちろん、ひらめきによって新生面が拓かれたあとは、またさらに近似の努力が方々で開始される、というわけです。
世の中、たいていはこの繰り返しです。
Y君には、この時得た近似型とぴったり型の「両方の型」を、ぜひ雛形にしてほしいと思います。そしてY君固有の事柄についても応用し、新たな発見をしてほしいと思います。強くそう願ったので、ここに書き記しました。