「山びこ通信(2014年度秋学期号)」より、下記の記事を転載致します。
『ユークリッド幾何』
担当 福西 亮馬
このクラスは中学3年生のR君とマンツーマンです。今学期は、R君の方から進んで「この前にこの問題が解けなかったので、今日はこれを解けるようになりたいです」と提案してくれています。そのような時は、R君の持って来た問題を一緒に見ることをしています。こうした提案を自分からすることは、慣れれば何でもないことかもしれませんが、精神力のいることだと思います。幾何でも、点について、その名前をAやBと定義とすることは、一見当たり前のようですが、最初の慣れないうちは、なかなかできないものです。それをR君はできるようになってきたのだと感じました。
この間も話をしていた時に、R君が、「他の教科ではそれほどは思わないのですが、数学だけは、解けないと自分が負けた気がして、すごく悔しいです」と言っていました。私は、「ああ、それだったんだ。それが、『だから、私は数学をするのです』という、R君の証明なんだ」と改めて知りました。そして、人が純粋に応援できる何かを、R君は純粋に胸に持っているのだと感じ入りました。
ここからは私個人の記憶になりますが、幼稚園の頃に、朝、園長先生に抱えられながら、手を広げて飛行機になりきらないと部屋に赴こうとしなかった彼も、卒園式に号泣していた彼も、はっきりと、今の彼と同一人物なのだと知りました。その彼の十代の時の走りを、応援せずにはいられないと思いました。
一方、ユークリッド『原論』は、前学期に引き続き、第3巻を見てきました。最後の山場は定理35~37の「方べきの定理」です。その36までをこのあいだ証明し、残すところはあと1つとなりました。この稿がお手元に届く頃にはきっとそれも達成しているかと思います。マラソンランナーに対して最後にタオルをかけるシーンではないですが、R君には「よく頑張った」と改めて、その時にはエールを送りたいと思います。