福西です。この日は、『安寿とずし王』(下)(脚本:堀尾青史、画:久米宏一、童心社)を読みました。
越後で人買いに騙された安寿と厨子王は、丹後へと、母親と女中は、佐渡へと送られます。
姉は潮を汲み、弟は柴を苅って、一日一日と暮らしていた。姉は浜で弟を思い、弟は山で姉を思い、日の暮れを待って小屋に帰れば、二人は手を取り合って、筑紫にいる父が恋しい、佐渡にいる母が恋しいと、言っては泣き、泣いては言うのだった。
(──森鴎外『山椒大夫』)
そしてとうとう、安寿は弟の厨子王を逃がす決心をします。自らは男手の仕事を願い出て、厨子王と同じ芝刈りに就きます。というのも、山から見える国分寺を指し示し、そこへ逃げる道順を教えるためです。
普通に逃げたのでは追いつかれます。二人の姿が目につくことを恐れた姉は、弟に一人で逃げるように説き伏せます。弟は不承知でしたが、最後には、「必ず迎えに来ます」と約束し、国分寺へと走ります。
(『山椒大夫』では、安寿は、自分たち姉弟が焼印をおされる夢を見ます。そして目が覚めて、守り本尊(お守りの彫像)を見ると、その額には「たがねで彫ったような十文字の疵があざやかに残っていた」のでした。そのことがあって、安寿は決心をしたことになっています)
厨子王は国分寺に駆け込みます。そこへ山椒大夫の屋敷からの追手が向かって来ます。
その寺の住持は曇猛(どんみょう)律師という徳の高い僧でした。その律師のおかげで、厨子王は何とか連れ戻されずにすみます。(これは当たり前ではなくて、僧が通報するという展開も十分に考えられたことであり、厨子王にとっては運が良かったと言えます)
その頃、安寿はどうなったでしょうか。彼女は、責め苦を受けまいとして、沼に身を投げたのでした。
一方、厨子王は元服し、数奇な縁をたどって、丹後の国守となります。厨子王は早速父の消息を尋ねますが、その頃には父はすでに亡くなっていました。彼は、行方知れずの母を探すことだけに一縷の望みを託し、佐渡へおもむきます。
(この時、「女中はどうなったの?」というのが、Rちゃんの質問でした。残念ながら、『山椒大夫』の方にも書かれていませんでした。亡くなってしまったのでしょうか。あるいはまた別の場所へ連れて行かれてしまったのでしょうか)
安寿と厨子王の母は、その頃もまだ佐渡にいて、豪農のもとで働かされていました。目が見えず、むしろの上に干した粟(あわ)に雀が寄りつかないように、竿を振って番をしています。そしてこんな歌を口ずさんでいます。
安寿恋しや、ほうやれほ。
厨子王恋しや、ほうやれほ。
鳥も生あるものなれば、
疾う疾う逃げよ、逐わずとも。
歌の中の「疾う疾う逃げよ」というのは、先週読んだ箇所の、人買いに捕まって離れ離れにさせられたことを想起します。
そこへ厨子王がやって来ます。
『山椒大夫』の終わりでは、次のように書かれています。
女は雀でない、大きいものが粟をあらしに来たのを知った。そしていつもの詞を唱えやめて、見えぬ目でじっと前を見た。そのとき干した貝が水にほとびるように、両方の目に潤いが出た。女は目があいた。「厨子王」という叫びが女の口から出た。二人はぴったり抱き合った。
(──森鴎外『山椒大夫』)
今回は何とも言えない終わり方の、しんみりとしたお話でした。最後に厨子王と母親が出会えたことが、果たして物語全体の救いとなったのかどうかは分かりません。またいつか誰かにこの話をするような機会があった時、今とはまた違った感想を抱くのかもしれません。
後半は、新しい和歌を一つ紹介しました。
これやこの ゆくもかえるも わかれては しるもしらぬも おうさかのせき
「蝉丸や!」と、生徒たちは坊主めくりで有名なその名前を口にしていました。なじみがあるせいか、歌の方もすぐに覚えられそうでした。
その後で、競技かるたのルールで、百人一首をしました。
今回は10枚ずつ、計20枚を場に並べました。読み札は30枚の中から、「空札あり」で読み上げました。
結果は、1枚差でM君の勝ちでした。(前回は1枚差でRちゃんが勝ったので、劇的なイーブンですね^^)。
今日紹介した「これやこの」も出てきました。
残りの札が1対1になった時、最後に読んだ歌は、「すみのえの…」(ゆめのかよひちひとめよくらむ)でした。
今回は空札(場にない札が読まれること)があるので、「おてつき」が何度か見られました。おてつきは悔しいものですが、その悔しい経験がまた大事だなと思いました。
また、「囲い手」が気に入ったらしく、頑張って二人とも「これかな?」と思う札を手で覆っていました(笑)。(まだ歌は覚えきれていないので、上の句の間は囲っておいて、下の句が読まれた時に取る、というわけです)
M君がRちゃんの囲い手のすき間に手を伸ばして取る、「囲い手破り」を1度だけしていました。すごいなあ!と思いました。
Rちゃんは、敵陣の札を取るのが得意で、札の「送り」がよく見られました。
どうやらRちゃんは「ひさかたの」と「はるすぎて」が、M君は「ほととぎす」が得意札のようです。どちらもそれを取れた時には、顔がぱっと輝いていました。
他にも1字決まりの歌を覚えると相当に有利になるので、また覚えていけるといいですね。