ことば1~2年A(0520)

福西です。Aクラスの記録です。二人の見学者があり、四人で授業をしました。

今日はこの和歌を暗唱してもらいました。初夏と言えばこれ。

はるすぎて なつきにけらし しろたえの
   ころもほすちょう あまのかぐやま  持統天皇

歌の情景は今の季節に即してさっと説明しましたが、まだ意味の方は曖昧でもいいです。耳に残った音をたよりに覚えて下さい。(具体的なイメージは、大人になるにつれて、だんだんと深まっていきます。)

音の響きでは、「なつきにけらし」とか「ころもほすちょう」が面白い(けれども最初はとっつきにくい)と思います。

一方、「あまのかぐやま」という部分が、みんなにとっては馴染み深かったようです。覚えられたところには声が大きく出ていました。

とりわけSちゃんが勇気を出して、一番最初に「一人で諳んじること」をクリアしてくれました。その後に続く形で、他の生徒たちも声を出せるようになっていました。

暗唱は、思い出しては忘れ、忘れては思い出すのが基本です。それを繰り返していくうちに、だんだんと板についていくものです。今回はあくまでその最初。ですのでもし今は自信がないなと胸の内で感じている人がいたら、次におさらいをした時には不思議と自信がついているものなので、安心してください。

クラスの方針としては、今後一首ずつ、百人一首の中から、紹介していきます。一回に一首で、一年後には、三十首ほど親しんでいることになるでしょう。

百人一首を覚えることは、たとえるなら、新学期にはまだ名前の知らないクラスメイトの方がまわりに多いようなものです。それがそのうちに、偶然にでも声をかけられるようになり、ひいては家に遊びに行く約束をするような関係になっていきます。

そんな「見ず知らず」のうちからでも、「知り合い」「友達」「大の友達」と、ぽつりぽつりと親しみが増えていくように取り組んでいきましょう。

本読みは、『うばすて山』を読みました。(『日本の昔話2・したきりすずめ』(おざわとしお再話、福音館書店)所収)

昔、ある小さな領地でのこと。口減らしのために、六十歳の父母を山に捨てるという掟がありました。その掟を守らなかった者は領主から、「掟破り」として罰せられます。

その領内に、三吉と三太という二人の孝行な兄弟がいました。そして三吉と三太もまた、自分たちの母を山に捨てなければならない日がやってきました。二人は葛藤の末、家の下に穴を掘って老母を隠します。

一方、隣の国の領主が、その小さな領地に戦を仕掛けようと考えていました。隣の領主は、謎かけの使者を送り、「もしこれに答えられなければ、攻め込むぞ」と言って脅します。

三吉たちの国の領主は困り、領内に「これを解いた者には褒美を与える」というお触れを出します。けれども誰も申し出る者はいませんでした。

そこで例の二人の兄弟は、穴の中の老母にたずねます。すると、穴の中から、

「そんなことは簡単だ。こうこうすればよい」

と、知恵を貸してくれます。三吉たちがただちに申し出ると、領主はそれを使者への返事とします。

隣の国の領主は、「これはたいそうな知恵者がいるな」と、またさらに別の謎を送りつけます。しかしそれも同様にして答えられてしまい、いよいよ三つ目の謎。それは次のようなものでした。

「姿も形も同じ、馬が二頭いる。そのどちらかが母馬で、どちらかが仔馬である。それを答えよ」

と。

兄弟はまた、母に尋ねます。すると、二人の老いた母はこう答えました。

「草を前にして、それを先に食べた方が仔馬で、見ていてその後から食べた方が母馬」

と。

こうして隣の領主は、「こんな知恵者がいてはかなわない」と、とうとう戦を仕掛けることをあきらめます。また、三吉と三太は、自国の領主に、「これまで謎を解いてきたのは、実は私達ではなくて母なのです」と打ち明けます。そして褒美のかわりに「うば捨てをやめること」を願い出ます。すると、そのように新しいお触れが出されたということです。

「老いたる馬は道を忘れず」ということわざがあります。老母の知恵は、決して時代の変化や世の中に対して万能を誇るものではありません。けれどもそれが、「いざ」という時にはまた「補える」部分がある、ということなのでしょう。 「うば捨て」が一見、合理的に思われても、その土地に年寄りがいなくなったことで、ひょんな謎かけに対する知恵を有する者もまたいなくなってしまった、というのは示唆的です。

「食い扶持を減らすため」に因習となった「うば捨て」のお話は、おそらく食べるに困るような北国の山間に伝わってきたものです。

「草を前にして、それを先に食べた方が仔馬で、見ていてその後から食べた方が母馬」と、この台詞を、他ならぬ老いた母が言うところには、内容と形式の一致があるように私などは感じ取りました。

今回読んだバージョンでは、謎かけは、「材木の本末」と「灰の縄」と「二頭の馬」でしたが、Rちゃんは「その謎と違うのやったら、読んだことがある」と教えてくれました。「貝殻の穴に紐を通すのに、蟻を使うもの」とのことでした。Rちゃんは本をよく読んでいるんだなあと感心しました。

実は私も下調べをしていた時に、そのバージョンのお話に出くわしたので、「それ、それ、それ!」でした。(『日本の民話4』宮城・みちのく篇、未來社)。それによると、馬は牛に変わり、蟻と蜜で穴を通す(いわゆる「孔子珠を穿つ」)となっていました。多様性は興味を引きますね。

また、朗読の途中、ところどころ私から生徒たちに質問をしたのですが、Y君がその都度、的を得て答えてくれていました。話も真剣に聞いてくれており、また(私の好きな)戦国時代とかでも話が合って、嬉しかったです。

残りの10分は、これまで作ったかるたを混ぜて、「かるた取り」をしました。作る方は今回はしませんでしたが、また新しくできた札を足していければ、盛り上がるのではないかと思います。