ことば1~2年B(0423)

福西です。

このクラスでは、元気な男の子が3人ということで、日本のお話なら鬼(や妖怪)、外国のお話なら竜(や巨人、魔法使い)といったものが出てくるお話をたくさん読みたいと思っています。

「次はどうなるんだろう?」「怖いけど、作戦を立てればきっと勝てる!」「それにはまず相手の弱点の情報を集めないと!」というような類のものです。

この日は、絵本の『酒呑童子』 (川村たかし・文、石倉欣二・絵、ポプラ社)を読みました。

978-4-591-07841-9

『御伽草紙』にもある「大江山の鬼退治」の物語を、川村たかし(児童文学作家)が、創作を交えて書き下したものです。

いかに頼光、うけたまわれ。大江山の鬼どもすみついて、わざわいをなす。たいらげよ

など、『御伽草紙』の原文をもとにした文体(上の太字の部分が原文通り)には、臨場感あふれる読みやすさがありました。私などは単純に、「カッコいいなあ」と思いながら読みました。(そして、もしかしたら作者が幼少期に読み聞かせてもらった時の、音色に対する愛着が表現されているのかもしれないという、勝手なイメージが湧きました)。

鬼退治ということで、R君が「桃太郎みたいやなあ!」と言っていました。

「さらわれた姫たちの救出」は、「宝物を持ち帰ること」にあたるかもしれません。

一番最初に盛り上がりを見せたのは、豪傑たちのカタログでした。

三百人力と うわさもたかい、渡辺綱
鳥や動物のことばがわかる、坂田公時
水がへいきの、藤原保昌
火をつかう、碓井貞光
うらないの名人、卜部季武

ここで、生徒たちは思い思いに、「ぼくやったら、これがいい!」と言い合っていました。

「うらないは予言ができる。つまり、相手の行動が分かるということ」と言って、それを気に入ってくれたり、

「ぼくは火と占いの力がいい。あと水も。それから、動物の言葉が分かると、(三百人力の)力も!」

と言ったり。結局、全部なんですけれどね(笑)

中でも、「三百人力」が一番人気でした。もし渡辺綱(わたなべのつな)が聞いたら喜ぶかもしれませんね。

このあと、鬼たちの方も、茨木童子石熊童子虎童子黒鉄童子といった恐ろしげな名前が上がります。

 

さて正面から行ったのでは、それまでの豪傑たちと同じく返り討ちに合ってしまいます。そこで源頼光ら六人は、山伏に扮し、武器を隠して、「鬼が城」の懐に近づくという作戦を立てます。(ちなみに『御伽草紙』では、「討手」を差し向けたことが知られてしまうと、鬼が葉など小さなものに姿をくらまして発見できなくなるから、とあります)。

また、「酒呑童子」という名前の通り、酒が「好き」ということは、酒が「弱点」でもあります。

そこで、頼光らは、鬼が城に向かう道中に得た「不思議な酒」を使って、鬼たちを油断させ、本来の力を奪ったところで討ち果たそうと計画します。

いわば「だまし討ち」です。

これは、頼光の視点では、さらわれた姫たちを無事救出する「成功率」を上げるための手段ということになります。

この絵本で一番の「ゾクゾクする」ところは、相手をだまそうとしている気持ちがあると、かえって「相手にばれはしないか」という疑心暗鬼にとらわれる点です。それが酒呑童子と源頼光の酌み交わしのシーンで描かれています。

鬼が城に迎え入れられた頼光は、血という名の酒ではなくて、酒という名の(本物の)血を一献勧められます。それを頼光が、目的遂行(鬼退治と姫救出)のためとはいえ、「さらり」と飲むところが、いかにも不気味な印象を与えます。

このような究極の選択を迫られた時の反応を知りたくて、生徒たちにも、「自分ならどうする?」とたずねてみました。すると、

「飲んだふりをする!」(R君)

「でもそれだと、少しずつしか減らないからばれるかも」(M君)

「襟のところから流して捨てる」(T君)

など、今の不安な気持ちを何とか解消しようとする言葉が飛び出してきました。

 

そして、これは絵本の中での創作部分になりますが、その「相手をだまし通す」という緊迫感をより出すために、酒呑童子の髪の毛の間には一羽のフクロウがいて、「この山伏たちは怪しい」と警告するという設定になっています。それを坂田公時(山暮らしで動物の言葉が分かるという金太郎)が察知して、頼光に「作戦の危機」を知らせます。

そこでも、頼光の肝の据わり様が試されます。

例の「不思議な酒」を飲ませようとして、その前にこれだけの「計画にはない予想外の事態」をクリアしなければならないというのは、「もし自分なら、そんなアドリブがきかせられるだろうか?」と自問するのに、十分なリアリティがあります。

酒で鬼たちを酔い潰すことに成功した人間たちには、それでも緊張が去りません。これから討ち果たそうとする相手のいびきが、何とも不気味に聞こえています。

鎧を着て、刀を握り、いよいよ鬼の首領の枕元に立つ六人。

鬼の髪の毛の間でますます危険を告げるフクロウ。

読み進めるたびに、感情移入する部分が多くなっていくのを感じました。

最後に、「自分だったら、どこにまず斬りかかるか?」ということを生徒たちに聞いてみたところ、

「フクロウからまずやっつける!あ、でも、フクロウはまずい!まずい!」(M君)

「胸!だって心臓があるから!」(T君)

「頭をやっつける!」(R君)

「足で動きを封じる!」(私)

ということでした。中でも、M君の「フクロウを攻撃したら、それによってよくないことが起こるのではないか?」という心配は、すごく分かるような気がしました。

ちなみに絵本では書かれていませんが、『御伽草紙』の方では、酒呑童子は、

「情なしとよ、客僧たち、偽りなしと聞きつるに、鬼神に横道(おうどう)なきものを

という言葉を残しています。いつか大人になった時に、それも見つけてくれたら嬉しいです。

 

生徒たちが、物語の中で自身の心を活躍させ、お互いに意見を出し合って楽しんでくれる様子を見ると、こちらも「読んでよかったなあ」という気持ちになります。彼らが本を好きになり、自分でもそれを探して読めるようになってくれれば、と思っています。

 

残りの時間は、前回の『孫子の兵法』のおさらいをしました。