『ユークリッド幾何』 (担当:福西亮馬)
『本当にすごいものは、彼らの好奇心!』
今学期から新しく一年生のHi君が入ってきました。彼にはガイダンスの後、対頂角(『原論』1.15)、同位角(同1.27)、錯角(同1.27の言いかえ)の命題を一つずつ証明してもらいました。去年の1年生たちもそうでしたが、最初はかなり苦労していました。ですが晴れて一つ目が証明できると、それを使って二つ目、三つ目と面白いように解けていくので、そこに幾何学の「味」を知ってもらえたようです。この間は、三角形の内角の和(1.32)を証明してくれました。そして休み時間の最後のいとまも惜しんで、「もう一つできるかもしれないし、やってみる」とまで言ってくれました。
今は2年生たちとは別々の課題をしてもらっていますが、いずれ合流して議論に加わることができるでしょう。その時が来るのが楽しみです。
さて2年生たちには、三平方の定理の応用で、『アルベロス』を紹介しました。これは「靴屋のナイフの問題」とも言われ、アルキメデスが考えたとも言われています。授業では左の図以外にはそれほど深くは立ち入りませんでしたが、後ろにはアンモナイトの殻を割ったような美しい図柄の定理が控えています。もしご興味のある方は、ぜひお調べになってみてください。
(斜線部分がアルベロス(靴屋のナイフ)。線分CDを直径とする円と面積が等しい)
その後、少し目先を変え、数論(『原論』第9巻)に入りました。授業では「偶数-偶数=偶数」というような、わりと簡単なものから証明してもらっていて、まだそれほど感動があるというわけではありません。しかしある時、授業が終わってから、とても象徴的な展開がありました。
ユークリッド『原論』の命題9.20に、「素数は無限にある」という内容の命題があります。それは中学生には手に余る問題だったので、授業では伏せておいたのですが、そのことが生徒たちの興味をかえって引いたようでした。素数とは何かという話から、1の位が3や7の素数が多いことや、下2けたが17の場合はどうかというのが、いつの間にか話題にのぼりました。
(分担して割り算するA君とK君)
そこでA君とK君が、「下2桁が17」の数は素数かどうかということを議論し始めました。するとおもむろにK君が12317という無作為な数字をホワイトボードに書き記し、それが素数かどうかを調べたのでした。
2、3、5、7では割り切れなかったので、さっそく「12317は素数らしい」という予想が立てられました。そして11、13…と割る数(素数)を大きくして続けていきます。ここで、100までの素数を見つける必要が生じました。
(100までの素数表を作成する Ha君)
すると隣にいたHa君が、二人の計算している間に100までの「素数表」を作成し始めたのでした。一方、ひたすら割り算を実行していたA君が、割る数をどこまで調べ上げればよいか、その指標を欲していました。私もちょうど頃合だと思ったので、「エラトステネスのふるい」を紹介しました。その方法によると、1102<12317<1112なので、素因数分解の対称性から、仮に111以上の数で割り切れた場合は111未満の数にも素因数のペアが見つかります。それなので、結局、111までの素数で割り切れなければ、12317は「素数」ということになります。そうなれば当初の「下2桁が17の数は素数」という予想がいよいよもっともらしくなります。
(関数電卓で「エラトステネスのふるい」を実行中)
さて、K君が関数電卓を持ってきてルート・キーを叩きはじめた頃、Ha君の素数表が完成しました。これが貴重な鍵となりました。なぜなら、111までの素数を調べればよいと分かっているので、そのリストにある素数であとはひたすら割っていけばいいからです。「もれがない」という点が重要でした。A君とK君の手に渡ったそのリストと、電卓の力のおかげで、研究が飛躍的に進みました。
そしてとうとう、12317が割り切れる時が来たのでした。しかもそれは109という、「最後の最後で!」というドラマチックな偶然でした。それがちょっと信じられなかったので、電卓のディスプレイの113という表示をまじまじを見つめてから、もう一度自分たちの手計算でも確かめていました。確かに、12317=109×113でした。
この反例によって、下2桁が17の数は「素数とは限らない」ことが分かりました。しかし、三人にがっかりした様子は微塵もなく、一つの数が素数かどうかを判定することが、これほども大変であることに、「いい汗をかいた」と言わんばかりでした。
さて、それで終わりかと思いきや、その好奇心にはまだ続きがありました。「12312317はどうかな?」と。その平方根は約3509です。ですので、それまでの大きさの素数(600個以上)で割り算を実行すれば、晴れて「12312317が素数かどうか」を知ることができます。しかしそんなことはしたくないのが普通です。しかもそれを知って一体何の得があるのでしょうか?…とたいていなら、ここでさじを投げてしまいそうなものです。しかし彼らの探究心とチームワークは、まさしく「飽くなきもの」でした。正直この展開には私も驚きました。
このあとも実はまだまだ続きがあるのですが、ここで割愛します。もしよければ、こちらの記事の方が詳しく書いていますので、ご覧下さい。
(素数判定プログラムで、ますます盛り上がる三人)
最後に、三人が「素数判定」のプログラムで得た不思議な数でしめくくりたいと思います。
“19999930875382758397321361 is prime!“
(福西亮馬)