『ロボット工作』(山びこ通信2011/11より)

『ロボット工作』 (担当:福西亮馬)

『コツは、思い続けること』

ショベルカーのように物を運びたい、輪ゴム鉄砲を取りつけたい、ライントレースをしたい…など、色々な仕様をどれか一つでも実現できた時、その達成感は何にも代えがたいものがあります。それが次のモティベーションにもつながります。

しかし頭ではすぐにできそうだと思っても、実際には様々な現実の壁があります。たとえば輪ゴム鉄砲のトリガーをモーターで引くことを考えたとします。何となくすぐにできそうです。(サーボモーターという種類を使えば本当にすぐできるですが、あいにく高価なので普通のDC(直流)モーターで考えることにします)。

DCモーターは電池につなぐ間、ずっと回転を続けます。しかしトリガーを引くという仕様にはその回転がかえって邪魔になります。トリガーを動かす角度はせいぜい60°ぐらいで、回転が止まないと、無理な力がかかってたちまちガリガリという不快な音が聞こえて来ます。

そうした経験から、モーターの稼動範囲を制限する必要性にはじめて気付きます。一番ロボットらしい解決はプログラムを工夫することですが、それには条件分岐のための何らかの入力装置が必要となるため、今はまだ難しい課題となります。

そこで、取りあえず仕様をかなえるためであれば、有線のリモコン操作が一番近道であろうと考え直しました。ただしリモコンを使うと、基板からの制御の必要がなくなるので、自律制御とリモコンとが切り替えできるように配線を新たに工夫しました(いつかこれを無線化したいと考えています)。

さて、リモコンで解決かと思いきや、トリガーを引いた時にも新たな問題が発生しました。トリガーの負荷につられて固定しているはずの銃身が上下し、照準が一定でないという問題でした。そこで、銃身がおじぎをする規則性を把握し、ちょうどゴムの発射のタイミングで真っ直ぐ向くように、取り付け位置を調整しました。それも「他の部品と干渉しない」という条件を満たしてやっと、地面を撃たずに数m先の標的まで狙えるようになりました。

このように、頭の中ではうまくいきそうなところに実際的な問題が次々と浮上してきて、それらを一個ずつ解決していかなければなりません。それはなかなか他の人には説明しにくい、ほとんど自分だけに課せられた地道な作業なのですが、それがロボット工作なのだろうと思います。ですので、もしロボット工作にコツがあるとすれば、それはひとえに「あれを可能にしたい!」という思いをどれだけ粘り強く持ち続けられるか、ということなのだろうと思います。不思議なことに、思い続けていると道は見つかるものです。技術的なことはその後から着いて来ることが多いようです。

1年生のH君は、「ピンポン玉を取り込む機構を付けたい」と思いつきました。ただ最初は案の定思うようにはいきませんでした。頭の中で「できそうだ」と思った時には、ラダーチェーンという部品を使うことを考えていたのですが、それだとモーターの回転軸が90度合わなかったので、軸の向きを簡単に変えられるプーリー(滑車)にまず変更しました。するとゴムの張力が弱かったり、ピンポン玉を挟むタイヤ同士の間隔が狭すぎたり…と、一つ解決してはまた一つ現れる不具合の謎に悩まされました。

最終的には、軽い玉を取り込むのにそれほど力が必要ないことに気付き、モーターのギア比を一番軽くして回転速度を上げたとたん、一番大きかった原因が解消され、両端のタイヤが勢いよく玉を取り込み始めました。これで見事解決です。またモーターの回転を逆にすることで玉を吐き出すことができ、「サッカーもできそう」と嬉しそうでした。

一方、2年生のK君は、夏休みの自由研究にライントレースをするロボットを取り上げたと聞きました。去年もロボット工作のレポートを書き、その時に「ライントレースができることを例に示せたらなお良い」と言われたそうです。それで、2年連続の取り組みとなりました。

夏休みの補講でその話を聞き、ある程度はアドバイスをしたのですが、その後は完全に彼に任せっぱなしでした。それでどうなったかなと思っていたのですが、秋学期の最初の授業で、「ライントレース、できました!」と報告してくれました。一時はコースアウトを繰り返し、どうやってもうまくいかなかったそうです。そこで、基板の半田付けを疑ったり、マイコンの故障を疑って新しいものに取り替えたりと、散々考えてやってみた結果、最後にプログラムに間違いがあることに気付き(一箇所、0が1になっていたそうです)、それを直したところ、たちまちうまくいったとのことでした。

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それを聞いて、試行錯誤の大きさと、最後までやり遂げた粘り強さに、「これができたら、さぞ…!」というK君の憧れを保持する強さとガッツを感じました。今回の達成感は桁外れの大きな自信となったことだろうと思います。「ライントレース、いいで」とさりげなく他の生徒たちにも勧めているK君に頼もしさを感じました。

(福西亮馬)