『ユークリッド幾何』『ロボット工作』(山びこ通信2013/6より)

『ユークリッド幾何』『ロボット工作』 (担当:福西亮馬)

『ユークリッド幾何』では、「『原論』の第1巻を通読すること」をこの1年の目標に据えて取り組んでいます。第1巻の命題は48ありますが、それらを片端から1つずつ証明していきます。だいたい週に2つか3つクリアするペースですので、もしかしたら1年よりも早く終わるかもしれません。

証明は個々にばらばらというわけではなく、芋づる式に、前に証明した事柄を使えるところに面白さがあります。たとえば、円周上のどの点もその円の中心から等しい距離にあること(定義15)から、合同条件の一つである二辺夾角(命題4)が証明でき、それを使って今度は三辺合同(命題8)が言えます。さらにそれを使うと、二等辺三角形の底角が等しいこと(命題5)が証明でき、またそれによって、角の二等分線(命題9)や垂直二等分線の引き方(命題10、11)が示せる、といった具合です。そして、いよいよ命題47は有名な「三平方の定理」で、命題48はその「逆」を表した定理です。そこまでたどり着いて、第1巻を「読み終えた」こととなります。

このように、あたかも一つの有機的構造体を、あちこちから眺め回し、時に美しいと感じることが、幾何を学ぶ楽しみであるわけですが、ユークリッドのそれにおいて、根本に横たわる構造とは、考えている空間が「平面的」であるということです。そして平面的とはすなわち、直角三角形において「三平方の定理」()が成り立つことと同値であり、また三角形の内角の和が「180度」であるということとも同値です。そう考えると、『原論』の第1巻(いくつかの定義と公準から何が言えるかということをまとめたもの)は、三平方の定理一つに集約されてしまうわけですが、それに表される平面の持つイメージを、逆に納得のいくところまで掘り下げ、「ものにする」ことは、その後に学ぶ「線形代数」や「微積分」、また物理学における「力学」の理解にも深く寄与することでしょう。そして取りも直さず『原論』は、読む人に絶えずインスピレーションを与えてきた古典であり、その「第1巻を(又聞きではなく)自分で読んだ」という思い出は、あたかも巨人の肩に乗っているかのように、他の学びにおいても、大いに自信になることだろうと信じています。

一方、『ロボット工作』では、今年は黒い線の上を自律してたどる二輪車(ライントレーサー)を作ることを目標にしています。

前学期はトランジスタ(FET)で作るスイッチ回路について学んできましたが、今学期は、それの集積体である「ロジック回路」について学びました。これはブール代数(集合の演算)と呼ばれる数学的な興味にもつながるだろうと期待しています。

ロボットは、センサーで得た電気信号(入力)をもとに、電気信号で作った命令(プログラムないしそれに相当する回路からの出力)を駆動系に与えて、所要の動作を得る仕組みの勉強です。その電気信号は、ONとOFF、つまり二進数の理解を深めることに尽きます。これは計算機(コンピューター)の基礎にもなります。

今は、フォトトランジスタと赤外線LEDを、各自半田付けして、赤外線センサーを自作しています。そして先に勉強したロジック回路で、ライントレース用のON・OFFの仕組みを、つまり入出力関係を構成します。これまでロボットの動作にはマイコンを使うことを想定していましたが、昨年度、生徒たちのイメージがまだプログラムで動かすところまでは追いついていない様子を感じましたので、今年はもっと原始的なものを作って、段階を踏もうと考えました。そして、その動作が複雑になるにつれて、いよいよ「プログラムやマイコンの出番である」という必然を感じてもらおうというのが、当面の野望です。

(福西亮馬)