今号の山びこ通信(2012/11)から転載いたします。
『将棋道場』(担当:百木 漠)
8月の将棋道場では夏休み恒例のトーナメント大会をおこないました。今回の優勝はShoくん。Shoくんは現在、将棋道場でただひとりの3級で、最近はほぼ負けなしの連勝を続けています。彼の強さはなにより攻撃力、とくに終盤の強さにあります。序盤や守りには不安定なところもあるのですが、いちど寄せにかかればほぼ勝ちを逃すことはありません。対戦中の集中力や負けた相手へのいたわりなど、上級者としての風格が身についてくるとさらに素晴らしいと思います。将棋は礼に始まり礼に終わるゲームであり、ただ将棋が強くて勝負に勝てば良いというものではなく、礼節をもって勝負に臨むことが重要とされます。将棋道場に来てくれる子供たちには、単に将棋が強くなるだけでなく、将棋にとりくむ際の礼儀や対戦相手への敬意などを身につけてもらえればと思っています。
将棋では勝負がついた際に、勝った側が「勝った!」と言うのではなく、負けた側が「負けました」と宣言します。勝った側は「ありがとうございました」でそれに答えます。NHKの将棋番組などでご覧になった方もあるかもしれませんが、将棋では勝敗がついても対戦者は淡々としています。決して勝った側がガッツポーズをしたり、勝利の雄叫びを上げたりすることはありません。もちろんそれぞれの対戦者の心のなかではさまざまな感情が去来しているでしょうが、そういった感情を対戦者が表に出すことはほとんどありません。それが将棋の世界では美徳とされているからです。相撲などの日本の伝統文化に通ずる美徳ですね。(それゆえ、朝青龍が大一番に勝ってガッツポーズをした際にそれが問題となりました。その行為への評価は人によって意見が別れるところだと思いますが…)子供たちにも将棋の世界にそういった美徳や礼節があることを知ってもらい、それを身につけてほしいなと考えています。
トーナメント大会の準優勝はJunくん。Junくんは全体的に将棋のセンスがよく、攻守のバランスがとれた将棋を指す印象です。将棋道場のなかでは珍しく振り飛車の使い手で、しっかりと囲ってから筋よく攻めていくタイプです。今後も、Shoくんの良きライバルであってほしいと思います。3位にはFumiちゃん、4位にはTetsuくんの姉弟コンビが入賞。毎回書いていますが、このふたりは着実に強くなっています。あえて言えば、ふたりとももう少し終盤力(寄せの力)が強くなればもっと勝てるようになるかもしれません。しかしこの点でも、ふたりは真面目に詰将棋の練習などにとりくんでいるので今後に期待したいなと思います。
今回の将棋道場では、子供たちがみないつもより集中してそれぞれの勝負にとりくんでくれたように思います。第一局が始まる前に「今日は一手指す前に、いつもより5秒長く考えてみて」という話をしたのですが、そのアドバイスをよく守ってくれました。一斉に「お願いします」で勝負が始まって、誰も一言も発さず、みなが盤面を見つめて勝負に集中をしているときは、教室全体の空気がぴりっとしてとても心地よいものです。こういった集中の時間を、これからも作っていければと考えています。
(百木 漠)