『ラテン語初級講読A』 (担当:山下大吾)
今学期から始まりましたラテン語初級講読Aでは、キケローの対話編『老年について』を冒頭から読み進めております。この作品は『友情について』とならんでキケローのいわゆる哲学的著作の中でも小品に属するものですが、それだけに通読に適しており、また内容も充実していることから、初級文法を終えた段階で取り組むテクストとして古来推奨されるものの一つになっています。今学期の受講生はお一人で、一月終了時点で全体の一割強を読み終えました。
対話編の主人公は大カトー。彼になぜ易々と老年の重荷を耐えられるのかと問う二人の若者に対し、先人の残した優れた例を挙げながら一つ一つその答えを明らかにしていきます。老年に関してしばしば語られる不平不満に対する答えは、「全てその種の不平の原因は性格にあるのであって、年齢にあるのではない」──老年に限った答えとも思われません。このような言葉が、大カトーの口を通してキケローならではの名文で表現されていきます。キケローのみならず古代ローマ世界、ラテン文学全体に浸透するhumanitas──この言葉もこの対話編の冒頭で目にすることができます──の模範に触れ、味わえる喜びがここにあります。
今学期は講師一人受講生お一人という非常に恵まれた環境を最大限活用して、また受講生ご本人の希望もあり、今のところ和訳など各国語訳には頼らず、もっぱらラテン語のテクストと辞書、文法書のみを用いて訳読を進める形をとっています。もちろんこの進め方は数ある方法の一つに過ぎません。ラテン語本文を正確に読み解いていくのが肝要であることは言を俟ちませんが、複数の翻訳を参照しながら意味を確認していく読み方から、各種の校訂本で異読にも目を配り、注釈書をひもといて各研究者の見解を押えつつ自らの読みを定めていく「本格的」な読み方まで様々な方法があろうかと思います。受講生それぞれのご希望に合わせて読み進めるよう柔軟に対応いたします。
(山下大吾)