『ラテン語初級講読B』 (担当:山下大吾)
今学期の『ラテン語初級講読』Bクラスでは、引き続きキケローの『友情について』を読み進めています。受講生は変わらずお二方で、現段階で全体の半分を少し超えたあたりまで読了しました。一回の授業ごとの範囲は、当初の10数行からやや増えて20行弱に落ち着きつつあります。毎回変わらぬ密度の予習をされながら読む範囲が徐々に増えていくことは、受講生の方々のラテン語読解力が着実に上がってきているという何よりの証拠であり、講師たるもの、おこがましさを感じながらも、うれしさを毎回噛み締めているところです。姉妹篇とも言える『老年について』の構成と同じく、本篇も中盤に至り、若き対話者であるファンニウスとスカエウォラの存在はいつしか背景に退き、老ラエリウスの独擅場となりました。彼の口を借りて、友情に対するキケローの熱き思いが冷静な論旨のもとに展開され、直接読者たる我々に訴えかけられてきます。その中では、語や構文、あるいは内容といった様々な「仕掛け」を通して、以前読んだ文章を鮮やかに思い起こさせる例に幾度も行き当たります。キケロー一流の散文の妙と言えるでしょう。また授業内での一エピソードになりますが、参照している邦訳の底本の読みと我々のそれとが異なる例が意想外に多く、その原因を突き止めるには最新の刊本ではなく、19世紀に出たキケロー全集の校訂註に目を通さなければならないという、文献学的観点から見て貴重な体験を受講生の方々と共有する機会もありました。
受講生の方々は毎回、当日読む範囲のテクストを自ら筆写され、一つ一つの語にはその語の持つ意味や文法事項を書き記し、更には邦訳のみならず、底本に添えられた英語で書かれた註を参照され、そのような作業を経てなお残された疑問点を纏められた上で授業に臨まれています。その授業でキケローは我々にこのように語りかけます。
「もし心労から逃げようとすれば、徳からも逃げなければならぬ。」
心労をものともせず、徳を体現されたかの如き方々、キケローがこの対話篇を記した年齢と同じ世代、あるいはそれより上に属する世代の方々を前にして、決して背景に退くことなきよう心掛けながら、毎週三人でキケローの言葉を一語一語読み進めております。
(山下大吾)