福西です。2年生クラスの素話の、ギリシア編「まとめ」です。
(長いので、興味のある方だけに読むことをお勧めします^^)
1「ゼウスとポセイドンとハデス」
オリュンポス12神の主神ゼウスと、その兄弟のポセイドンとハデスが、それぞれ天と海と地下(地上は取り合いになるので人間にやろうということになりました)の支配権をくじで決めたというエピソードです。Koちゃんが、何で兄弟なの? と聞いたので、結局ゼウスがその父クロノスから世界の主権を奪うところからさかのぼって話しました。
クロノス(時間)もまた、父ウラノス(混沌)から主権を奪った際、ウラノスに「お前は息子に倒されるだろう」という予言を受けていたので、クロノスは自分の子どもが生まれてくるたびに、次々と飲み込んでいきます。そして代わりに石を飲み込ませるという妻の知恵のおかげで、末っ子のゼウスだけがその難を逃れます。やがてゼウスは成長し、オリュンポスの神々を率いて、クロノス率いる巨人族と戦います(ティタノマキア)。それに勝利して、かつてクロノスに飲み込まれた自分の兄たちを吐き出させます(まるで赤ずきんです)。その出てきた順番が、ちょうど飲み込まれた順番と逆になるので、一番下の弟のゼウスが一番上の兄になったというわけです。(ゼウス⇔ポセイドン⇔ハデス)
ゼウスの武器は無敵の雷電です。これにかなう者はたとえ神々の中でも存在しません。またゼウスは鉄の時代の王で、いかにも強そうです。そしてポセイドンは三叉の矛(海をかき混ぜ、大渦を起こします)で、ハデスが隠れ帽子です。なぜかハデスだけが、生徒たちにはすこぶる不人気でした(笑)。ちなみにゼウスは、Yu君が「ぼくがひねもすで雷電を作ってやる!」とえらく気に入ってくれていました。
(左:赤ん坊の頃、ヘラがゆりかごに差し向けた大蛇をつかんでポイ。 右:大人になるとこんなにたくましく。十二の難業の一つ、レルネのヒドラ退治の絵)
ついで、3人の神のそれぞれの妻と息子の話におよびました。ゼウスの奥さんがヘラ、ポセイドンはアンピトリテ、そしてハデスがペルセポネです。そしてゼウスの息子で一番有名なのが、ヘラクレスです。彼はゼウスが人間の女と浮気してできた子どもです。それなので正妻のヘラには疎まれています。それなのになぜ「ヘラの栄光(クレス)」という名前なのでしょうか? というクイズを出してみました。するとKoちゃんが、以前どこかで話したことを覚えてくれていて、「ヘラの出した嫌がらせを全部クリアして、ヘラが認めてくれたからでしょ?」と。そうです(^^)。「じゃあ、」とKoちゃん。「トリトンってどんな神様なの?」と。トリトンは、ポセイドンとアンピトリテの息子で、半身がイルカで、父の手伝いを良くする伝令役みたいな神様です。
左がトリトン。右はアンピトリテとポセイドン(と馬)。
また、ポセイドンの逸話として、アテネとの「贈り物競争」に話が飛びました。これは、ある町の住民が何の神をまつろうかと相談をしていた時、ポセイドンが馬を、アテネがオリーブを彼らにプレゼントした、というものです。ここで、生徒たちにもどちらの贈り物が好きか手を上げてもらったところ、オリーブの方が若干多かったのですが、実際お話の方でもわずかな差でオリーブの勝ちとなりました。理由は、「馬は戦争の道具にもなるから、生活の役に立つ平和なオリーブの方がいい」ということです。そしてそのある町というのが、今のアテネになったという話です。負けたポセイドンはその時はどうにも悔しかったみたいですが、後でその馬をアンピトリテにプレゼントして結婚できました。ちなみにポセイドン夫婦は、他の兄弟(ゼウス・ハデス)とは違って、おしどり夫婦だったそうです。
(プローセルピナ(ペルセポネ)の略奪)
一方ハデスはというと、これが略奪愛なんです。かわいそうにペルセポネは、花を摘んでいる最中、突然地面が割れて、出てきた四頭立ての馬車に乗るハデスに連れ去られてしまったという話です。というわけで、ペルセポネは暗い地下で泣き通しです。どんな地の宝にもうなずきません。それでとうとうハデスも困ってしまって、こう言ったそうです。「かわいそうに、何も食べていないじゃないか。でも、のどが渇いているのではないか。なら、せめて、このざくろだけでもお食べ」と。それはそれは、みずみずしいざくろでした。ペルセポネも思わず一口、二口…。じつはこれが結婚の契約で、あの世の物を食べた者はあの世に住まなければならないのでした。授業ではこの後どうなったかは立ち入りませんでしたが、ペルセポネはあのざくろを全部は食べなかったので、食べられたざくろの1/3と同じ1年の1/3だけ、地下に暮らすということになります。それが地上では冬の季節にあたるというのが、ギリシア神話の説明です(ペルセポネの母が大地の女神なので、娘のいない間は何も生み出そうとしないというわけです)。
(ざくろ)
そこでふと、Ha君が「ハデスって、オルペウスの話に出てきた神様?」と言ってくれたので、「そうそう!」ということになりました。オルペウスの「妻を帰してください」の竪琴に涙を流したのが、ペルセポネで、それのおかげでハデスもうなずいたと言うわけです。
「鉄腕アトムにプルートウって出てくるよ。強かったけど、最後ボラーにやられて自爆したんや」と、Yu君が言っていたプルートウ(ちなみにプルートはハデスのラテン語名です)。
2「プロメテウスの火盗み」
さて、ゼウスが治める世界では、人間はまだ原始時代のようなみじめな生活をしていました。「それって、ジャワ原人? それとも火を使ったから、北京原人?」と言ったのはYu君です。よく知っていますね。そうなんです。当時人間は非常に寒い洞窟の中で不便な生活をしていました。しかも「女性」がいなかったのです。毛むくじゃらの男どもがむさくるしく肩を寄せあわせて(当然けんかをしながら)、洞窟の中で乱暴かつブルブル震えていたのです。
そこでプロメテウスという神(本当は巨人族の一員)が人間たちをあわれに思って、「火」を与えることを思いつきました。けれども当時、火は天界で管理しており、そこから盗まなくてはなりません。しかしプロメテウスはさまざまな出来事を予知できるほど、頭の働く神だったので、それで「ういきょう」という植物の茎に入れて隠すことを考えつきました。
ういきょう。「はくさいみたーい」と言うMiちゃん。この中に何か入れられそうという、昔の人の想像力に思いをはせてみました(笑)。
さて、たちまち人間たちは火を使って賢くなっていきます。Yu君が「そうか、火とはつまり科学技術のことなんやな。それで今のように豊かになったんか」と誇らしげな口調で(ちなみに彼の夢はヤッターワンのようなロボットを作る人です)。しかしその様子を見て、「だれだ、天の火を人間達に与えたのは」と逸早く気付いて激怒したのがゼウスでした。「火は、人間たちにはまだ早すぎる」というのが世界を統べる立場としての考えだったからでした。計画を狂わされて怒らないはずがありません(その時、雷で空気がびりびり、大地がゴゴゴーと揺れたかどうかは分かりませんが)。
この時なぜか、先のことが分かってしまうプロメテウスは、自分に関する将来だったからか、予知できなかったようです(あるいは分かっていてもあえて人間に火を与えてくれたのでしょうか)。ただちに彼は捕らえられ、コーカサスの山(あるいは冥府)に幽閉されてしまいます。そして毎日その肝臓を巨大な鷲の餌にされ、その肝臓はしかし神ゆえの再生能力で元通りになり、またついばまれる…という永遠の苦しみを味わう罰が待っていました。そこですかさずTa君とHa君が「その鷲はゼウスの鳥? ペットみたいなもの?」と聞いてくれました。その通りです。ちなみに鷲だけでなく、樫の木もまたゼウスの大事にしているものです。
さて、罰を受けたプロメテウスですが、生徒たちは同情ムードでした。そこでフォローしようと、「後でちゃんと助けてもらえるんだけど、その話はまたいつか…」と言うと、Koちゃんが言葉の穂を接いで「それって、ヘラクレスが助けるんでしょ」と、言ってくれました(すごい記憶力です^^ 私もいつ言ったのか忘れていました)。
3「エピメテウスとパンドラ」
「パンドラの箱」。本当は古代ギリシアの話なので甕(かめ)のはずですが、後世の小説の影響で、絵では箱であらわされています。
さて、前回の続きで、先知り男のプロメテウスには、後知り男のエピメテウスという弟がいました。何でも考えなしにやってしまってから、後で「あ、しまった」と後悔するのが特徴です。そのエピメテウスは、先に兄のプロメテウスから「ゼウスが火を盗んだ仕返しに、何かよからぬ物を送ってくるだろうが、それを決して受け取ってはならないぞ」と忠告されていました。「うん、分かったよ」とエピメテウスは、そのときは簡単に安うけ合していましたが、実際に贈られてきたパンドラのあまりの美しさを見て、二つ返事で彼女との結婚を承諾してしまいます。このパンドラは、ゼウスの命令で、鍛冶の神ヘパイストスが人型に作り、命を吹き込まれたもので、アプロディテからは美しさを、アポロからは賢さと音楽性を、アテネからは機を織る器用さを、盗みの神ヘルメスからは好奇心を贈られて誕生しました(ちなみにヘシオドスの『仕事と日』の説明では、「パンドラという名は「全て(パン)を贈られたもの(ドーラ)」という意味じゃ」という語呂合わせがなされています)。
そのパンドラが家の玄関にやってきて、鶴の恩返しのようにドアをコンコンとたたきます。エピメテウスが「はい、どなた」と戸を開けると、開口一番「どうかあなたのお嫁さんにしてください」というわけで(話はデフォルメしています^^)、しかもその美しさたるや、人間はその頃はまだ女性というものがいなくて見たことがなかったので(これもおかしい説明ですが…エピメテウスは一応神の世界の住人なので)、プロメテウスの忠告も頭から飛んで、すぐにO.K.してしまったそうです。(もちろんのように、生徒達からは「あーあ」のため息が)。
さて、エピメテウスとパンドラの結婚は、幸福で、仲睦まじかったのですが、エピメテウスがいつも仕事に出かける際に「決してあの甕の蓋を開けてはならないよ」と言う、その甕のことが、パンドラは気になって気になって、仕方がありませんでした。なにせ、ヘルメスからは、「好奇心」を贈られているのです。そうしてとうとう、その蓋を開けてしまう日が(ここで二度目の「あーあ」が)。さて、何が飛び出したのでしょうか。ということを生徒達に想像してもらいながら続きを話していきました。
それは、あらゆる災難でした。大きいものは、無数の病気、老化、死ぬこと、事故、暴力、戦争、悲しみ、悩み、体の痛み、心の痛み、心配、暴飲暴食、虚栄心、盗むこと、嘘をつくこと、傲慢になること、軽蔑すること、人の苦しみを見て喜ぶことなど、もっとです。小さいものに至っては、ねたむこと、うらやむこと、やきもち、知ったかぶりをすること、すぐに怒ることなどなど…。人間の思ういやなものありとあらゆるものが飛び出していったのです。(ちなみにここは具体的に描写しました^^;)
パンドラは自分がしてしまった事の大きさに、しばし呆然としていましたが、しかしはっと我にかえって、あわてて蓋を閉めたのでした。すると、最後にはその甕の底に、一つだけ、何かが残ったといわれています。それは何でしょう? ということで、次回まわしとなりました。「えー」といつものブーイングを承知で、みんなに質問したところ、それぞれ意見が聞けました。「愛」はMiちゃんで、「やさしい心」はKoちゃんだったと記憶しています(記憶違いだったらすみません)。次いで、「未来」、「勇気」、「それなら未来を切り開く勇気や」と誰か男の子が言ったのを覚えています。どれもいいと思いました。
4「ピュラとデウカリオン」
パンドラの甕の中身を明かした後、ピュラとデウカリオンの話をしました。彼らはエピメテウスとパンドラの子どもです。しかしその時代に、ゼウスの起こした洪水で一度人類は滅びてしまいます。唯一生き残って、しかし途方に困った彼らは、プロメテウスの予言の「母の骨(=石のこと)を背中に向かって投げよ」を思い出し、そのとおりにします。すると、石の落ちた場所から次々と新しい人類が立ち上がって出てきて、ピュラとデウカリオンの後ろに続いた、という話をして、今学期をしめくくりました。
すごすぎます。大学の授業並みの内容ですね(少なくとも私がやっていた内容と同じかそれ以上)。子どもたちの記憶力がよいというコメントがありましたが、それだけRyoma 先生の話がおもしろいのでしょう。語り方もさることながら、ギリシア神話の力のなせるわざでしょうか。第二のシュリーマンが生まれる気がします。
最後のパンドラのエピソードについても、最後に残ったのは何か?子どもたちの勘は鋭いですし、やはり子どもたちの答えが示唆するように、人間にとってポジティブなものが残されている、というのは自然な発想ですね。そして、それが残ることが悪いことではなく(つまり、そのよきもの「も」封印されているというのなら、最悪最低です)、それが残ったと言うことは、人類に未来があるという希望なのですね。
私の読んだギリシア神話では最後にでてきた「希望」は神が人間に仕掛けた「最大の罠」だとありました。
その最後の一つのために人間はパンドラの箱からでてきた多くの苦しみ悲しみから逃れピリオドを打てなくなると。
最後にでてきた希望に素直によろこぶのは、パンドラに仕掛けられた罠を見抜けなかったことに似ているのかもしれません。
希望(エルピス)の解釈はいろいろありますね。ヘシオドスのバージョンではエルピスが飛び出したので、あわててパンドラが蓋を占めた、と。このことについて、「最悪最低」の事態を招くことになるという解釈があります。希望までも閉じ込めてしまったのだから、という解釈です。ご紹介くださったのは、それとは別の意味で興味深い解釈です。希望というとふつうはポジティブに受け止めますが、そうじゃないわけですね。希望に欺かれるのが人間であります。そう考えると、最大の罠ということになります。もちろん、パンドラが蓋をしめたとはいえ、希望がかめに「残った」というくだりについて、最後のぎりぎりで最悪の事態をくいとめるべく「ふみとどまった」とポジティブに受け取る見方も根強いです。