今号の山びこ通信(2011/6月号)から、クラスの様子をご紹介します。(以下転載)
『ギリシャ語入門A・B』 『ギリシャ語初級・中級講読』 (担当:広川直幸)
今学期から始まった入門Aでは,Thrasymachusを教科書として用い,一年かけて古典ギリシャ語の基礎を学ぶ予定である.この教科書は,ギリシャ神話に基づいた愉快なテクストを読んでから,重要文法事項を整理し,最後に練習問題で理解度を確認するという体裁をとっている.まず文法規則を学び,それを確認するためだけの無味乾燥な短文の羅列を訳読するという,従来ありがちな教科書とは趣を異にするものであり,慣れれば楽しく学習を進めることができるはずである.だが,その楽しみも,学ぶべきことを着実に学んで行かなければ得られない.学ぶべきこととは,要するに語彙とパラダイムである.語彙は,テクストの文脈の中で,どのように使われているのかを意識しながら覚えるのがよい.パラダイムに関しては,教科書に現れるものは,すべて完全に暗記する必要がある.当たり前のことであるが,復習の上に復習を重ね,これらの壁を乗り越えて欲しい.
同じく今学期から始まった入門Bでは,First Greek Bookを一年かけて終わらせる予定である.伝統的な文法訳読方式による教科書ではあるが,短文訳読をさせるだけでなく,早い段階からある程度のまとまりのある文章を読ませることが,日本で出版されている同種の教科書とは異なる特長である.二週に一度の授業なので,各自,自分に合ったスケジュールを立てて,予習・復習に励んでいただきたい.
初級講読では,プラトーンの『ソークラテースの弁明』を読了した.初級文法を学び終えてすぐに,プラトーンの初期作品の中でも易しいとは言えない『弁明』に取り組み,最後まで読み切った受講生を称えたいと思う.初めは相当苦労したようであるが,解説を聞き逃さず,着実に読解力を向上させて行く様を見守るのは,教える側の私にとっても喜びであった.現在は,『新約聖書』の「マタイによる福音書」を読んでいる.古典期のギリシャ語とは少し異なるギリシャ語で書かれているので,そのあたりの解説に重点を置くつもりである.
中級講読では,トゥーキューディデースを読んでいる.この原稿を書いている時点で,1巻の43節まで進んだ.難解である.とりわけ,弁論の部分には,規範文法の観点からすると,破綻していると言わざるを得ない個所がある.この授業では,そのような個所を読む際,大意が取れればよしとするのではなく,何故そのような表現になっているのかを,できるだけ粘り強く考えるようにしている.
(広川直幸)