9/4 ことば6年生(作文)

高木です。

夏休み明けはどのクラスもそうなのですが、
このクラスでも夏休みの出来事を発表し合いました。
ただU君とT君には、口をついて出そうな言葉をぐっとこらえて、
それを作文にしてもらいます。
またそのときに、「時間」と「文字数」という《制限》を設定します。
今回は、「30分間」(秒単位で正確に)で、
「400字」(原稿用紙の最後の行まで書くこと)です。

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なぜこのような《制限》を設けたかというと、
実際的には、作文をする場面では、極私的なものをのぞいて、
かならずこうした《制限》がつきまとうからです。
その中で書く、というトレーニングをしないわけにはいかない。
また本質的には、そうした《制限》を意識するなかで、
「文章を組み立てる感覚」を養うためです。
常に「全体」を意識しながら、
頭のなかに沢山ある書きたいことのどの部分を選択し、
それをどのように全体のなかで分割・構成し、
書きながら言い換え、圧縮し、あるいは付加していくか。
こうした表現力を積極的に磨くために、
《制限》がひとつの原動力になるのだと、私は考えています。
これまでは表現する内容に重点を置いてきましたし、
むろんそういう姿勢に変わりはありませんが、
秋学期からはその表現をより洗練させていくことも意識していきます。

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「30分で原稿用紙1枚」と伝えると、
「えー!」という声とともに、2人とも不安そうな顔。
でもT君は、ものの15分ですらすらと書き上げてしまいました。
彼は、だいたいの目星を付けて文章を書いていくバランス感覚に優れています。
「よし! 間に合った!」とT君は小さな声で言って、原稿用紙を伏せました。
しかし、これは早く書き上げることが目的ではありません。
与えられた制限の中で文章を洗練させるために最大限努力することが必要です。
そう伝えると、「そうか!」と言って、
制限時間いっぱいまで消しゴム片手に原稿用紙にひたぶるに向き合ってくれました。
一方U君は、私の「スタート!」の合図とともに原稿用紙をくるりと裏返し、
そこに猛烈なスピードで構想メモをとりはじめました。
メモが終わると原稿用紙を表に戻し、余白に線を引いて部分に分割します。
この分割線にとらわれすぎるとかえって良くないと思いながら見ていたのですが、
U君自身はそこを超え出ることがあっても、柔軟に対応していました。

私が感動したのは、U君の最後の行動です。
彼はギリギリまでかかって、終了3分前に最終行まで書き終えたのですが、
そこから見直しを始め、おそらく表現を改良したい部分に出会ったのでしょう、
「う〜ん」と唸って頭を抱えてしまいました。
しかし終了時間は刻々と迫ってきています。
時計と原稿用紙を見比べながら、書き直すか否か悩んだ後に、
小さな声で「よし!」と気合いを入れて、
消しゴムで文字を消しはじめました。それもかなり広範囲にわたって。
間に合うかどうか私がひやひやしましたが、彼の努力は実って、
15秒前に書き上げることができました。
そして彼は、残りの15秒間も、見直しを続行しました。
内容はほとんど変わらないし、書き直さなくてもそれなりの文章はできたはずなのに、
書き直している途中でタイムアップになってしまうというリスクをおかしてでも
より良い表現を目指した彼の心意気に、私は心の底から感動しました。