今号の山びこ通信(2013/2月号)から、クラスの様子をご紹介します。(以下転載)
『ロシア語講読』(担当:山下大吾)
前学期まで入門クラスだった当クラスは、受講生Tさんのご努力の甲斐もあり講読クラスに「昇格」いたしました。記念すべき最初の講読用のテクストとしてTさんとご相談した結果、ワルワラ・ブブノワ女史の作家網野菊宛の葉書を取り上げました。葉書は私が個人で所有するものです。
女史は日本におけるロシア文学研究やその教育史を語る際欠かせない人物で、その草創期に活躍された先生方は押しなべて女史の薫陶を受けられており、また本来画家であったことから、当時の芸術家や文学者との交流の点からも重要な役割を担っています。Tさんは女史の伝記を通じて以前から興味を抱かれていたと伺い、このようなまたとない講読の授業が実現することになりました。書簡体ということもあり文体も柔らかく、文法的にも初級講読に相応しい程度のもので、ロシア語の筆記体がどのようなものか確認する上でも格好の教材になったのではと思われます。もちろんその内容も、ソ連帰国後の自身の生活や、チェーホフの訳などで著名な湯浅芳子について触れられるなど興味深いものです。
現在はトゥルゲーネフの『散文詩』を読み進めています。ラテン語の原題Senilia「老いの言葉」からも明らかなように、彼がこの世を去る直前に綴られた詩編は、主題としては多岐に渡るものの、そのいずれもが彼ならではの美的観照の眼に貫かれています。彼はこの詩編を一息に読まず、一日一編ずつ味読していくよう勧めていますが、Tさんは一編ずつなんてとんでもないと一言、ノート一杯の書き抜きと自ら編まれた註釈を手元に毎回授業に臨まれています。
(山下大吾)