山びこ通信(2012/6月号)から、クラスの様子をご紹介します。(以下転載)『山の学校ゼミ(社会)』(担当:中島啓勝)
このクラスは3月まで開講されていた「経済学入門」を引き継ぎつつ、新たな看板を掲げてスタートしました。前任の百木先生の授業では、毎回経済に関するニュースの解説を行った上で議論を行い、同時に経済現象の背後にある理論的・思想的背景を知るための本を講読してきました。ただ、議論が盛り上がるにつれ、その内容は経済の枠に留まらず広く社会一般に関する話題へと広がっていったとのことで、4月からはそうしたニーズに対応できるゼミを行うことになった次第です。合言葉はズバリ、「大人の社会科」。
受講者さんたちとの相談の結果、今期は「国際政治」について勉強してみたいということになったのですが、政治という極めてデリケートな問題をできる限り公平無私な立場で取り扱い議論するのは本当に難しい。そこでこのゼミでは、多種多様なテーマ設定を行うことで、固定観念に捉われないよう理解を深めていくことを目指しています。専門知識を得ることももちろん大切ですが、それよりも国際政治の動向やその歴史的経緯についてどのように考えたらいいのかの「コツ」を探っていくことに主眼を置いています。
具体的な内容についてご紹介します。最初の数回は、今年が四つの大国の政治指導者交代劇が一斉に起こる激動の年であることに注目し、各国が内外に抱える政治的課題とそこに通底するグローバルな経済危機について話し合いました。特にその頃ちょうど行われていたフランス大統領選や中国国内の政治スキャンダルについてはニュース記事などを読みながら詳しく解説しました。
大国の現状を確認したところで、次は「小国」を取り上げることに。打って変わって今度は、「シンガポール建国の父」リー・クワンユーのインタビューを読み、東南アジアの小さな巨人、シンガポールの視点から世界そして日本はどのように映っているのかを勉強しました。これを日本にとって「アジア」とは何かを問い直す一つの鏡にしながら、TPPや沖縄基地問題などにも議論は及びました。
最近のゼミでは、ユーロ危機に揺れるEU圏の情勢についてより多角的に見るため、「中欧」という歴史的な概念について二部に分けて学びました。まずはドイツが覇権的に振舞おうとする時に何度も甦る「中欧」帝国の野望について。そしてもう一つは、そのドイツやソビエト・ロシアという大国に挟まれて、歴史の波に翻弄され続けてきたポーランドやチェコなどの小国群が夢想してきた、「中欧」連邦という秩序構想について。この二つの「中欧」概念を比較しながら、ヨーロッパの歴史的多層性について話し合いました。「歴史の見立て」は必ずしも一つではないことを、皆さんとは確認できたように思います。
今後もこのクラスでは受講者の皆さんの要望に合わせて、様々な題材を選んで楽しく議論していこうと思います。興味のある方はお気軽にご参加下さい。
(中島啓勝)