山びこ通信(2013/6月号)から、クラスの様子をご紹介します。(以下転載)『山の学校ゼミ(社会)』(担当:中島啓勝)
この講座の前身である「経済学入門」を担当されていた百木先生から三人の生徒の方々を引き継いで、早くも一年が経ってしまいました。楽しい時間はあっという間だとよく言いますが、本当にその通りだと実感しています。生徒さんはどの方も社会経験豊富な人生の先輩ですので、僕が胸を借りているような気分です。こちらが学ぶこともしきりで、講師としては負けてはいられないと焦りながら、毎週あの手この手で楽しんでもらう工夫をしています。
内容についてですが、雑誌「ニューズウィーク日本版」等の抜粋記事を使って最新ニュースを解説する時間が半分と、課題図書を決めて一章ずつ読み進めてディスカッションを行う講読の時間の二部構成で授業を進めています。ニュース解説では、昨年度に引き続き、敢えて日本ではあまり大きく取り上げられることのない地域のニュースをなるべく多く扱うようにしています。日本に密接に関わる話題、領土問題やTPP、アベノミクスなどのニュースも見逃せないのは事実なのですが、グローバル化の波が押し寄せている現代、決して近視眼的な思考に陥らないようにと、バランス良く目配りするよう心がけています。具体的には、「アラブの春」以降の北アフリカ諸国の現状や、台頭著しい東南アジアの新興国が抱える政治問題などを、政治・経済・歴史等様々な視点から紹介してきました。
最初は「何故そんなよくわからない国の話を細かく紹介するんだろうか」といぶかしむ向きもあった生徒の皆さんも、何度も繰り返し話題に上り続けているうちにかなり事情通になり、今ではこうした国々に関心を持ってもらえるようになってきた様子です。また、一見何の関係もないお互い遠く離れた地域の話が、点と点が繋がって線になるように、実は深い場所ではしっかり結びついていることがわかってくると、日頃何気なく見ているテレビニュースの印象も一変してくるということがご理解いただけるようになったのではないかと思います。
講読ではつい先日までは杉田敦『政治的思考』(岩波新書)を読んでいました。これまで講読では歴史関係の本を選ぶことが多かったので、今回は政治思想、特に現代の民主主義の問題について学ぼうということになり、新聞書評などでも取り上げられていたこの新書を採用することに。著者の議論を僕が少し整理して論評した後、ディスカッションのテーマを設定して皆さんの意見を聞くという流れで授業は進行しました。
非常に面白かったのは、この本の内容について生徒の皆さんがどちらかと言えば批判的、もしくは不満を抱く場面が少なくなかったことです。かく言うこの僕自身も正直に告白すれば著者に賛成できない部分も多かったのですが、むしろ全面的に賛同できるような内容ではなかったからこそ、それぞれが自分なりの意見を出し合い様々な論点で討論することができたのかも知れません。あと、皆さんの本への批判に対して僕が敢えて著者の肩を持つような意地悪な再反論を提示して皆さんをわざと苦しめるのも、ディベートならではの醍醐味でした。政治思想というものの厄介さ、一筋縄ではいかない複雑さを改めて実感してもらえたのではないでしょうか。
今の状況に満足することなく常にマイナーチェンジを加えながら、これからも広く「社会」をテーマに皆さんと学んでいきたいと思います。興味を持って下さる方はいつでも歓迎しますので是非覗きに来て下さい。
(中島啓勝)