今号の山びこ通信(2011/6月号)から、クラスの様子をご紹介します。(以下転載)
『イタリア語講読』 (担当:柱本元彦)
今学期はルイジ・ピランデッロの短編をいくつか読んでいます。ピランデッロは二十世紀初頭に活躍した劇作家・小説家で、1934年にノーベル文学賞を受賞しました。彼の作品はすべて、<自分という存在のあいまいさ・もろさ・空虚さ>という同一主題の変奏と言えます。なんだ結局どれもこれも同じではないかと、むかし学生の頃に読んだときには少し物足りなく感じられたものです。でも実際のところなんと大きなテーマでしょう。それが数かぎりない状況のなかで、真正面から追究されるわけです。そのうえ、とりわけ彼の戯曲は、野性的な力強さ(残酷さ)をもっていました。しばらく前まで「ピランデッロ的に不条理な・・・」という科白をよく目にしたものです。<不条理>という言葉は日本ではカミュとフランス実存主義によって普及したようですが、ヨーロッパではまずピランデッロが有名でした(カフカの<発見>は第二次大戦後ですから)。あらためて読んでみるとやはり素晴らしい、本物の文学だなあと納得させられます。文章は、当時のシチリア的表現が少しあることを除けば、現在のイタリア語とまったく同じ、比較的平易なはなしことばです。<体言止め>を多用したセンテンスは短くドライなもので、読書はまるで映画を見ているような視点の移動をともないます。映画と言えば、1985年公開のタヴィアーニ兄弟監督の映画、『カオス・シチリア物語』がピランデッロの短編を原作にしていました。プロローグとエピローグがとりわけ印象的でしたが、もちろん本編も美しく、お薦めです。
(柱本元彦)