5/13かいがB「陽光と風の園庭で」

梁川です。

久々の温かい陽光に恵まれ、全てのものがキラキラと光って見えるこの日、外に出て絵を描こうと、皆さんに提案しました。木々が絶え間なくざわめいていて、風が吹くと、少しだけひんやりしています。

前回のクラスで、熊田千佳慕(くまだちかぼ)展の話をしていたので、外へ出る前に、展覧会図録と絵本を紹介しました。特に男の子は、大変緻密に描かれた昆虫の絵に、驚いて見入っている様子でした。中には、2年あまり費やして描いたものもあります。
「え〜、そんな・・・気が遠くなる・・・!」とI君。
絵は、心ゆくまで描けばよいのです。

千佳慕さんの絵を紹介したのは、このような緻密で写実的な絵がお手本である、というような意味では勿論ありません。絵から伝わってくる優しさや、作者の自然への愛着、絵を通した生き様を感じて欲しいと思ったからです。

それでは、外へ出て「いいなあ・・・」と思うものを、探してみましょう。
今回のポイントは、それを画用紙の中に、どのように収めるかです。

両手の親指と人差し指で、フレームを作り、手振りで説明しました。遠く見える木々や空の全体の景色を収めてもいいし、例えば木の根っこのあたりにグッと寄って見ることもできます。
もう一つは、見つけたものや、拾ったもの、描きたいものを、コラージュのようにちりばめる考え方もあります。
ヒントはこれくらいにしておきましょう。皆さん、どのような発見をしてくれるでしょうか。

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どこかで見たことがある光景。絵の具や筆を貸してあげる、親切なIちゃん。水バケツTちゃんと仲良く半分こ。

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「私、この色の作り方覚えちゃった。」笑いながら、得意げなIちゃん。この季節のこの時間、まだ日は高いですが、自ら描き始めたのは、お馴染みのモチーフ「夕日」。かいがクラスで描くのは4度目となるでしょうか。
これをご覧になって、「また同じ絵を描いてる・・・。」と、決して思わないで頂きたいと思います。彼女は、「自分の色」を見つけた喜びと自信に溢れています。そして、きっとそのことを、Tちゃんにも伝えたかったのでしょう。

一方のTちゃんは、新緑の葉をつんと立てているビワを中心に、目の前の木立を描き始めました。
葉のタッチが生き生きとしていて素敵です。
「この葉っぱ、近くで見てみた?」とたずねると、
「ううん」と首を振ります。
私は、近くまで来て、触ってみることを勧めました。Iちゃんも手を止め、ビワの木から一枚ずつ葉をもらって、触りました。
「わあ・・・ざらざらしてる!」「きゃはははっ」と二人が笑います。

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ビワの隣りの木の幹は「ドライブラシ」の技法で描かれており、ビワの幹と質感を描き分けています。彼女は意図的にしたのではないと言います。殊更に「技法」という認識もありませんでした。しかし、水加減で表情がかわることを、これでひとつ発見しましたね。色々と応用してみて下さい!

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おや?ジャングルジムの中にいるのは、I君です。
天辺につきだした横棒に画板を掛けて描きます。なんと豪華なイーゼルでしょう。でも、気をつけてね・・・^^;
描いているのは、向かいに立つ園舎。新しくなった、渡り廊下の真っ赤な屋根を細かく描写しています。
私が繰り返し「自然の中から何か見つけよう」と口にしていたので、「建物も入っていい?」と訊ねる彼でしたが、もちろんOKです。

今回は、定席のジャングルジムをI君に譲ってあげた優しいM君は、石段を上がった場所から、青々したモミジのトンネルの方を眺めています。
しかし、彼の気を引いたのは、石段の上に立っている石灯籠。黒い絵の具で、水墨画のようなタッチで描いています。納得がいかず、新しい紙で、もう一度チャレンジしていました。

その後、何か他のモチーフを探そうとしていたとき、
「わあ、すごい大きなアリがいる!」と彼が叫びました。
見てみると、体長1㎝ほどもあります。
これもモチーフになり得ることを、彼に伝えましたが、動いているからなあ・・・と言います。確かに、素早く動き続けているアリを描くことは難しいことです。しかし、そうしたものでも、時間さえかけることができれば、描くことが可能となります。

熊田千佳慕さんは、昆虫を、何時間も肉眼で観察し、頭に焼き付け、家に帰って急いでスケッチしたといいます。M君の場合なら、大好きな鳥でも構いません。いちど、試してみるとよいでしょう。勿論、「見ながら」のスケッチでも構いません。瞬間を焼き付ける、その繰り返しで、好きな対象を自分のものにすることができます。

アリを覗き込みに来たK君は、めずらしく「何を描いていいか分からない・・・」と告げます。
実は最初、「『Lの木』があるところまで行きたい」と言っていたのですが(秘密の森にL字型の木があります)、今からは全員で向かえないため、今回は園庭周辺で、とお願いしていたのでした。
申し訳ないので、少し一緒に歩きながら、色々なものを観察してみるよう促しました。

モミジの若葉が頭上を屋根のように覆った石段を降りてみると、緑色のシャワーが降り注ぐような空間があり、ここからあたりを見渡します。
桜の朽ち木に空いた穴。オサムシが頭を突っ込んでいて、おしりだけが見えています。
別の桜の幹には、樹皮の下に迷路のようなアリの通路があって、トンネルのようになっています。
・・・彼は、石段に落ちていたひとひらのモミジの葉を拾い、「これを描く!」と言って、地球儀の中に戻りました。
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「ねえ、先生、風って何色かなあ・・・」
しばらく考えたあと、緑色のパステルを粉にしてから、手のひらで全体に塗り広げました。
その風の中を、ふわりと旅するように、モミジの葉が浮かんでいます。

Y君が真っ先に描いたのは、ジャングルジムと、地球儀(←未だ正式名称を知らないのですが、こう呼んでいます)。
「ああいう『銀色』って、どうやって描いたらいいのかなあ・・・?」
絵の具に「銀色」は入っていません。ここでは、好きな色で描いてみるよう提案しました。
(例えば、それに近く見えるグレーを提案することや、銀色らしく光って見せる技法のことが頭をよぎりましたが、それを答えることは、何故だかお粗末に感じられました。)
彼が考えて選んだのは「黄色」でした。真っ青なジャングルジムと、互いに引き立てあう色です!

次に、拾い集めた落ち葉を観察し、画用紙一杯に描き並べました。葉脈のなりたちや色合いを描きわけています。「風」も描いていますね。その色は、深みのある、ドキッとさせる色でした。私がそのことを伝えると、「紺色に赤を混ぜてみたんやで!」と嬉しそうです。この日の発明です。
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そして、最後に3枚目の絵も描いてくれました。彼はいつも多作です。私が心打たれるのは、彼は自分が「描きたい」と感じたことを迷いなく、心のままに描くことです。その結果としての「多作」なのであって、「多作であること」=「必ずよい」という意味ではありません。

ふと見ると、M君が園舎に隣接したお堂の方へ近づいてゆきます。
お堂のすぐ前まで足を踏み入れると、お堂脇に建つ物置と、大きなスダジイの陰に入り込み、しーんとした異空間がありました。薄暗い、落ち葉のじゅうたんの上にしゃがみ込み、スダジイの木を見上げて描き始めたM君。彼と同じ目線で見上げてみると、黒々と光を遮る太い幹、枝分かれのすき間すき間から後光が放たれています。
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荒々しい幹の質感や、包み込むように広がる葉を、筆のタッチで見事に表現しています。
「見て、なんだかオーロラみたいな感じになった・・・」
と指さした部分は、向こうに見える空の色。逆光になってどんよりとした雲の陰と光る際、空の深い青、そうした色合いが入り交じった色です。

突然、物置の向こう側で「ケムシだー!ケムシだ−!」という叫び声がします。
駆け寄ってみると、物置の前を這う一匹の毛虫を、I君が覗き込んでいます。もそもそゆっくりと歩いていると、一匹のアリがきて、攻撃をしかけます。そのたびに毛虫が悶える様子をハラハラしながら見守りました。アリが去った後は再び、平然と歩いていきます。
毒々しく不思議な色合いをもつ毛虫に見入っている彼に、描いてみてはどうか、提案しました。
「あ、そうか!」と彼もその気です。
しかし、クラスの残り時間も少なくなり、道具を運んでセッティングをし直している間にも、毛虫がどこかへ行ってしまうかもしれません。
「どうしよう・・・。」
と悩んでいる彼に、
「今、じっと頭に焼き付けて、それから描いてごらん・・・」
と声をかけました。
そして、彼は、毛虫の歩みをしばらく見つめたあと、再びジャングルジムへ駆け上がり、画用紙一杯に大きく引き伸ばして、一匹の毛虫を描いてくれたのでした。
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皆さんが、それぞれ一つ(以上)「何か」を見つけてくれたことを、嬉しく思うと同時に、また、安心もしました。その「何か」は、きっと大切なものなのだと、信じています。