クラスが始まる前、彬先生がやってきて、興奮気味に伝えてくれました。
「ケンテツ先生、空に横断歩道ができていますよ!」
石段に駆け出ると、西の空に、太い筋状の雲が、嘘のように一列に並んでいます。
一方、園庭からは、もこもこしたうろこ雲が、北から南へゆっくりと流れていくのが見えます。
秋の空も、いよいよ絵画を楽しんでいるようです。
今回のテーマは「しぜんのものを描く」です。
主なポイントは、「描くものを自分で探し、見つけること」そして、
「これまで見つけた描き方を、どのように生かせるかを考えること」です。
「自然の中にあるものを発見し、その命を分けてもらい、紙の上に新しく命を吹き込む。
そんな気持ちで描いてみる事を提案しました。
まず、描きたいものを探しに出かけます。
みなさん、どのようなものを見つけてくれるでしょうか。
まっ先に、もみじの木に目がとまったM君。スルスルっと木の枝の中へ。Cちゃんも一緒に、枝葉を観察します。
Rちゃんも、もみじの木から、一枝を分けてもらいました。
K君が、拾ったものを見せてくれました。手の中にはドングリの実がぎっしり。
さらに、ジャングルジムのてっぺんから空を見つめて、何かを考えているようです。
JちゃんとIちゃんが、一緒になって「しぜん」を探します。袋に、何かを拾い集めているようです。
さて、描くものが決まったところで、いよいよ制作に入ります。
制作場所は、屋内、屋外を各自が選択します。
M君は、最初に心に決めたもみじの小枝と迷わず向き合います。
このように、直感的な、取りかかりの早さというのも、時に大切なこと。彼のよいところです。
「あ、こうなってるのか・・・!」と、小枝のなりたちの中に何かを発見し、黙々と描いている姿が印象的でした。小枝を筆洗いに生けているのも、粋ですね。
Rちゃんは、紅葉したてのもみじの葉を、大きく引き伸ばして描きます。
きっと、その形に惹かれたのでしょう。目を凝らさなければ分からないような、小さなギザギザがあることが、描くことによって、あらわになってゆきます。
Cちゃんは、教室にもどって来てから、
「やっぱり、何かを見て描くより、想像して描いてみたい。『芸術的』な感じで描いてみたい。」
と告げました。しかも「指で描きたい」と言います。勿論、テーマから外れていなければ、構わないので、Cちゃんの思う「芸術的」な感じで描いてみるよう、勧めました。
「『自然』って、けわしい感じかなあ、やさしい感じかなあ・・・」と、つぶやきながら、想像を膨らませているようでした。
Jちゃんも、指と筆を併用しています。指で描くことには、何か普遍的な楽しさがあるように感じられます。
集めた色々なものが、心のままに画面に配置され、彼女らしい、賑わいのある世界が広がってゆきます。
外の様子はどうなっているでしょうか。
K君が選んだのは、前課題に続いて3度目となる、空。そして、このジャングルジム。
どちらにも、深い想い入れがあるようです。
そして、「私も!」と駆けてきたIちゃんと、肩を並べて描くこととなったようです。
互いに黙々と画面に向かいながらも、個々が、あたたかな「連帯感」のようなもので繋がっている。
そこに、独りではなく、「クラス」で取組む良さがあると、この場を見守っていた彬先生が、これまでのクラスを振り返りながら、「山びこ通信」の中に記してくれました。
Iちゃんは、大きな笹の葉や、イチョウの葉と一緒に、夕日を描きました。彼女にとっても、空がお気に入りの画題となり、同時に自信を得たようです。こちらも嬉しくなります。
Kくんが空を描き終えた頃、時計の針は5時に迫っていました。後片付けの時間がくるまで、残り10分少々。それでも、クヌギの実と木の葉の絵も描きたかった彼は、少し急ぎ足で、新しい画面と向き合うことを決めました。
そうして、しばらくした時です。ふと、空をみやると、先ほどまでの空とはまた違った光景が、そこには広がっていました。空全体が波打つように、蛍光オレンジとも、桃色ともつかない色に、まぶしく光っています。それは、夕日が地平線の向こう側へ消えた後、短い時間だけ見ることのできる、この世のものとは思えない夕焼けの色でした。
「あ〜っ、いま、いま!」
落ち着かない様子で、K君が叫びます。
「きえるな、きえちゃだめだ・・・!」
感動と、描きたい衝動。葛藤。それらが同時に押し寄せ、暫し立ちすくんでいた彼の姿が忘れられません。
残念ながら、この瞬間の空に取り組むことは叶いませんでしたが、空はいつでもK君のことを、待ってくれているはずです。
このようにして、皆さんが、思い思いの「しぜん」を見出し、描いてくれました。
それらの作品は、今年度の終わり頃、改めてアップロードし、お目にかけたいと思います。
(現在、3月の中旬を目処に、「山の学校 かいがクラス展」を企画中です。)
臨場感あふれるご報告に深く感じ入りました。
>感動と、描きたい衝動。葛藤。それらが同時に押し寄せ、暫し立ちすくんでいた彼の姿が忘れられません。
>残念ながら、この瞬間の空に取り組むことは叶いませんでしたが、空はいつでもK君のことを、待ってくれているはずです。
K君の魂の高ぶりを、同じ気持ちで受け止めて下さった先生の心がここにあります。10年、20年先になって、K君がこのエントリーを通し、健哲先生と再会するときがきっとあるでしょう。K君はどんな気持ちでこの記事を読むことになるでしょう。
同じ事は、このクラスに参加しているすべての子どもたちにも言えることでしょう。
言葉に表せない感動
それは、絵や言葉の形で、時間を超えて「待ってくれているはずです」。