今号の山びこ通信(2013/11/1)から、クラスの様子をご紹介します。(以下転載)
『中学理科』(担当:高木彬)
秋です。読書をするには良い季節となりました。このクラスの生徒であるM君は最近、小説に夢中です。それも、自分のお小遣いで買って読んでいるのだといいます。クラスが始まる前の休み時間、M君は小説を読んで静かに待っています。
彼がまだ小学校4年生の春、ことばのクラスで一緒に芥川龍之介の『トロッコ』を読んだことを懐かしく思い出します。いま中学3年生になり、読書家になってくれていることがうれしく、感慨も一入です。思えば彼とは長い付き合いです。
ある日、M君が読んでいるファンタジー小説の中に登場する科学装置のことが話題になりました。それは魔物(モンスター)を召喚する装置なのだといいます。ふつうファンタジーの世界では、召喚獣は魔術で喚びだされます。しかし、この小説の面白いところは、そうしたオカルティックなことを科学的な装置がやってのけるということのようです。そこで、こんな話をしました。
現在、Burtonという企業と慶応義塾大学が「True 3D」という立体映像技術を共同開発しています。簡単に言うとこれは、ディスプレイなしに空間中に立体映像を現出させるシステムです。最近はテレビでも映画でも映像が3Dになってきていますが、それはあくまでもモニターやスクリーンといった2次元平面上に映しだされた映像です。錯視を利用して3次元的に見せかけている。しかしこの「True 3D」は、その名のとおり、本当に3Dなのです。
まず、空気中の酸素分子や窒素分子にレーザービームを照射して酸素イオンや窒素イオンへと電離(イオン化)させます(レーザーブレイクダウン)。直後にレーザーの照射を停止することで、イオンは再結合し、平常状態の分子に戻ります。その再結合の際には、強力な光が放たれます(プラズマ発光)。レーザーのオン/オフを切りかえ、このイオン化と再結合を繰り返すことで、空気中に常に光の点が浮かんでいるように見せることができます。
「True 3D」は、この光の点の空間座標をコンピュータで制御し、また複数個の光を同時に点灯させることで、立体的な映像を3次元空間に浮かべることに成功したのです。2次元のディスプレイ上で言うところの「ドット」が、3次元へと拡張したというわけです。世界初の画期的な技術です。
M君にとっては、ちょうどイオンや電離について中学校で勉強しているところだったので、タイムリーな話題でもありました(といっても、この原理をきちんと理解できるようになるのは、もっと先だとは思いますが)。「True 3D」で検索してみると、Burtonが出している映像がYouTubeにアップされていましたので、M君と一緒に見ました。面白いですからみなさんも一度ご覧になってみてください。彼は興味津々で、「これが、もっと光の粒が細かくなって、いろんな色で発光できるようになったら、召喚獣みたいに見えるかも!」と言っていました。
彼が耽読している小説の中の「召喚システム」は、今のところ現実には存在しません。いわゆる“空想科学”です。しかし、どんな科学的発見も、最初は誰かの夢や空想でした。かつては空想だと言われていたことが実現した例も多くあります。だから、「『召喚』って、できるようになるのかな?」というM君の質問の答えは、「できない」ではありません。「まだできない」なのです。
(※このクラスでは、今回ご紹介した「質問コーナー」の他に、「入試対策」「自由研究」「実験」にも取り組んでいます。詳しくは前号の『山びこ通信』をご覧ください。)
(高木 彬)