今号の山びこ通信(2013/6/17)から、クラスの様子をご紹介します。(以下転載)
『英語講読』(担当:浅野直樹)
今年度から新たな講読クラスが2つ始まりました。J.S.ミル『自由論』とドナルド・キーン『日本文学の手引』です。『ハリー・ポッター』シリーズのクラスと合わせて合計3つの講読クラスが同時並行で進んでいることになります。
『ハリー・ポッター』シリーズは、繰り返し申し上げておりますように、原著を読むと、日本語訳を読んだときと比べて、大人向きだという印象を受けます。簡単な語彙に制限されているわけではありませんし、巧妙に韻を踏んでいたり、伏線が張り巡らされたりしています。こうした多様なおもしろさに引っ張られて先へ先へと読み進めることになります。しかしあまりにあせって読み進めるといけません。突拍子もないことが起こったりするので話の筋を見失ってしまうこともありますし、あまり理解できない部分を魔法のせいだろうと決めつけて読み飛ばすと後で重要な場面だったと判明することもあります。何気なく登場するモチーフもヨーロッパの伝統を踏まえたものであったりします。原著のおもしろさを十分に味わうためには正確に英語を理解するということが必須です。逆に言えば、楽しみながら読むにつれて、英語を正確に理解する力が養われるということです。
『自由論』は古典的名著であり、社会科学や倫理学において参照され続けています。実際に読んでみると、その議論の水準に驚かされます。そのままでも今なお通用する議論があちこちにあります。今の基準では時代遅れに感じる部分もあることにはありますが、それに反論を加えるとしてもまずはミルの議論を押さえてからです。すでに何種類かの日本語訳が出回っているので、それを読むのも悪くはないのですが、原文を読むと議論が頭の中に入ってきやすいです。ミルの文章は、よく言われているように、非常に格調高い英文です。
『日本文学の手引』は定評のある本です。多くの日本人読者にとっては、自分たちがあまり意識もせずに受け止めてきたものに対して改めて説明がなされるので、意外に新鮮だったりします。このクラスでは大学院入試も視野に入れて、英語を正確に読めるようになることを目標としています。そのためにもふさわしい素材です。日本文学に馴染みのない人でもわかるように記述されているのですから、正しく読めば私たちに理解できないはずがありません。納得のいくまで一文ずつ丁寧に読んでいます。
(浅野直樹)