浅野です。
前回と同じ本から、「頑張り」と「おとぎ話」の項目を取り上げました。
これほどまとまった分量の英文を読むのは初めてだと言っていましたが、しっかりと読むことができています。特に今回は批評的な読み方をしてくれていました。
「頑張り」では章末に、「女性が職場に入ることが多くなるにつれて、家庭生活を営むために頑張りは減ったのか、それとも仕事を求める競争が強まったために頑張りは増えたのか?」という質問が付けられていました。ツッコミどころはいくつかあるでしょうが、Aさんは的確にも、「筆者の言う「頑張り」は職場でのみ見られるものなのか。例えば子育てを頑張るということはないのか。」と指摘してくれました。確かにこの筆者による質問を二者択一で答えるのには無理があります。
「おとぎ話」の項目の論旨は、「日本のおとぎ話には、『うぐいすの里』に見られるように、四季折々の外的な美と、女性の忍耐強さといった内的な美が表れている。」といったものでした。章末には、「『うぐいすの里』のヒロイン(うぐいす)と実際の日本女性との間の共通点は何か?」という質問がありました。しかし、この議論は取り上げる作品が恣意的で(本文では他に『炭焼長者』にも言及されていましたが、日本のおとぎ話としてこの二作品を取り上げる意図がよくわからない)、議論に説得力がなく、章末の質問は明らかに答えが想定されているようであると指摘してくれました。もちろん入門書なのである程度は仕方ありませんが。
こうした批判をしようとするならばなおさら本文を正確に読む必要があるのは言うまでもないでしょう。
興味深いやりとりでした。私は思うのですが、このクラスでされていることは、本当は高校生にもっとやってほしいと思います。自分の意見を述べることほど「自分」にこだわり始めた年頃の生徒たちに必要なものはないと思うからです。一つの答えに執着してはおもしろいものがつまらなくなるでしょう。
福西です。浅野先生、こんにちは。
英語で、日本のことを表現する取り組み、とても面白そうですね。
>本文では他に『炭焼長者』にも言及されていましたが、日本のおとぎ話としてこの二作品を取り上げる意図がよくわからない
論証では、自分の意図を説明するために、ある意味、自己完結が必要ですね。それが「あらかじめ答を誘導している」ととられてしまうことにもなりかねませんが…。その兼ね合いがとても難しいですね。またそれに対して、堂々と「ここがよくわからない」と指摘するのも、立派だと思います。もし時間があれば、ここで取り挙げられている昔話を、逆に自分で日本語で調べてみるのもいいかもしれませんね。
「うぐいすの里」は、「みるなのくら」(別名)という絵本でも手軽に見て取れると思います(山の学校の本棚にもあります)。男が女との約束を破り、けれども女はそれに対して何も仕返しをせずにただ「自分から去る」ところに、心を動かされた、という話だったと記憶しています。
「炭焼長者」の話は、最初炭焼きの夫の方が貧乏で、妻はわざわざ大金持ちの家から嫁にやってくるのでしたね。それでも妻は威張らずに夫に尽くしたおかげで、夫が実は莫大な金塊を持っていることに気付き(夫は妻のおかげでその価値に気付くことができて)、互いにそれまで以上の幸せを得るという筋だったと思います。
コメントありがとうございます。もう少し補足させていただきますね。
>論証では、自分の意図を説明するために、ある意味、自己完結が必要ですね。それが「あらかじめ答を誘導している」ととられてしまうことにもなりかねませんが…。
おっしゃる通りです。日本のおとぎ話を説明しようとすると、どの作品を選んでも恣意性が疑われてしまいます。ただ、「うぐいすの里」と「炭焼長者」は、補足していただいた通りの筋ですが、それほど有名ではないのではないかと思ったわけです。もちろん有名だからよいというわけではありませんが。
これらの作品のどこに違和感を覚えたのかというと、「うぐいすの里」では女性(うぐいす)が自分の子どもを殺されたのに怒りもしなかったところと、「炭焼長者」ではそもそもなぜわざわざこの炭焼き人と結婚しようと思ったのかがわからず、妻のほうが知的に優位だったのに夫を立てるというところです。結婚の動機に関しては、妻は最初から金塊のことを知っていたのではないかという議論にもなりました。これは原典に当たってみないとわかりません。
一言で言うと、現代の感覚からするとあまりに家父長制的だと感じたわけです。このあたりに深入りすると個人の価値観の問題になってしまいますが。日本のおとぎ話にそもそもそうした特徴があるのかもしれませんし、明治期から昭和にかけてそうした特徴を持つ作品が好まれてきたのかもしれませんし、この本の項目の執筆者が選んだ作品がたまたまそうであっただけかもしれません。何にせよ、もっとしっかりと調査をしないとこれ以上のことは言えません。