”Discours De La Methode -pour bien conduire la raison, et chercher la verité dans les sciences.-「方法序説」-理性を正しく導き、学問において真理を探究するための―、Descartes デカルト著、1637” を読んで
2014春-2015春学期のフランス語講読(A)で本書を読んできました。フランス語は約400年も前の著作をそのまま現代の本とほとんど変わらず、同じくして読める言語です。しかし書かれた背景となる時代は、随分かけ離れていますので、この距離を補うならばその道の研究者の助けを求めなければならないでしょう。
副題をもう少し膨らませて理解すると、-真理なるものは神であるとした宗教論理により支配されていた世界から、科学的な論理により真理を確定し、その真理よって支配される世界へと移行するために、どうすべきか-と言えるかと思います。
現代の私たちにしてみれば、全く逆の、科学的な論理から宗教的な論理に移行することを想像すると、それがどのようなことか、考え易いかと思います。おそらく、そうなったとしたら、蒙昧とすることでしょう。すなわち、当時は時代の大きな転換点にあって、そこに現われ出た著作なのです。そこに記された人が実践すべき科学的な論考方法が400年後の今に脈々とつながっているのです。これのことを考えれば、極めて偉大な指標を説いた一作であることが想われます。
本書を原文で読むことが貴重であったと感じた点を述べたいと思います。本書に説かれる内容は私たちにとっては時代を遡る分、必然的に既に何処かで聞いたようなことであったかもしれません。しかも、もしそれが日本語で表記されていたとしたら、簡単に読めた、としてしまい、古典と言われるにしては案外何も残らなかったかもしれません。しかし、原文は一文がかなりの長文です。しかも、その当時の読者は恐らくそれなりの権威者であり、彼らに対するへつらいとも思えそうな2重否定文の連続(いわゆる持って回った言い方)、長文故に指示代名詞がどこをさしているのか端的でない、等々、意味を取ること自体が難解でした。また、例えば一つの単語でも使用される背景が異なりますので、何故この単語が使われたのかなど考えるほどに相当な時間を費やすこととなりました。そして長時間をかけて一つ一つ紡がれた言葉を解きほぐすことで、デカルト自身の主張や熱意に近づけたと感じています。
デカルトは科学的な論理の元に築かれた理論が如何に時代を超えて積み増されていくべきかを説いています。そしてその方法に則り、こうして現在に知(学問)をつなげていくことが可能であったことを今知る私たちは彼の正しさが理解できます。古典ですので、書かれていることは良く考えてみれば新しいことではないのですが、その当時新しい考えであったデカルトの説をデカルトと同じ感動を持って自分の中に再現できました。そのことで、その事の本質と400年を経て手にしている結果をもって今後のより良い方向性を見極めることができ得るのだと思いました。
次に本書の内容より考えさせられた点を記します。それは400年の時を経た私たちがデカルト以上に科学的な論理に基づいて思考をしているかという点です。確かにモノやシステムは格段に進歩した世界に生活していますが。
この点についてデューイという哲学者が上手く表現しています。人は生れ出たその時点から始まる。これまでの技術は当然のこととして返りみることはあまりなされず、そこから始まると。そしてその場その場で考えて、うまく対処する知恵や能力を備えている。しかしそうしたものは知(学問)ではない。そうしたものが次につながるものとして知識として定置され、次に用いられることで、それは知(学問)となるのであり、そうでなければ知(学問)とならないと。
デカルトの時代、宗教も道徳も人も動物も意識も認識も生理学も行動学も論理的に切り分けられない、混交したその時代に、科学的な学問の方法、方向性を示すべく熟慮に熟慮を重ねたさまが文脈に表れています。本書で主張される方法自体は、こうして時代を経た私たちには極めてプリミティブ、原始的な感も抱かされます。しかし、基本それは今もって引き継がれています。しかし、現在、対処法の方がより高度に見えるばかりに対処法の習得ばかりに気が向けられ、学問という道に置かれた知が置き去りにされているとしたら、あまり大きな損失であることになります。そうならないよう、デカルトに叱咤激励されていると強く感じました。
以上本書を読むことで多いに考えさせられることとなりました。
本書をご推薦し、ご指導くださいました渡辺洋平先生に深く感謝致しております。またこの様な極めて貴重な場、経験を与えてくださいます山の学校の山下太郎先生に深く感謝致しております。大変ありがとうございました。
2015.8.10
山下 和子