マルクス=エンゲルス・フォールムから見たベルリン大聖堂(2023年6月29日筆者撮影)
ベルリン大聖堂 Berliner Dom の丸屋根は、もう飽きるほど見たかもしれません。二〇二三年の三月から一年間、私はドイツの首都ベルリンに研究滞在しました。このような好機をいただいたのは幸せなことですが、長期の海外滞在と研究活動には多くの精神的困難が伴います。そんな私の心を度々癒したのが、毎週日曜に大聖堂で開かれる夕方礼拝です。礼拝は非キリスト教徒にも開かれており、そこへ集った会衆の方々と共に讃美歌を唄うことが、私にとって週末の恒例行事となりました。ベルリン滞在中は、日本人とドイツ人とで構成された民間の混声合唱団に参加し、讃美歌だけでなく日独の民謡を歌う機会にも与っております。
「音楽の都」と言えば、お隣の国オーストリアのヴィ―ンを思い浮かべる方が多いでしょうが、ベルリンも古典音楽の盛んな土地です。大抵毎日何処かでは無料の演奏会が開かれていて、大きな歌劇場もあります。日本出身の音大生も多く、合唱団ではそうした方々から指導を受けてきました。私も山の学校では一応「先生」と呼ばれておりますが、歌唱に関してはまだ「生徒」です。合唱練習に参加していると、自分の様々な側面に気付かされます。周りから聞こえる別音階の声に流されてしまうこと、かといって自分一人で歌うと自信無さげになってしまうこと、ちょっと上手く行かないだけで集中を切らしてしまうこと、一度上手く行ったら油断して勢いで歌い上げてしまうこと…この一年間、研究以外から何かを教えてもらうことの方が多かったようです。
何かを新しく学ぶということは、自分自身の魂の輪郭を露わにし、それと向き合う体験でもあります。そして、ドイツ語などの外国語を学習する場合には、否応にも母国語と外国語とを比較せざるを得なくなり、日本語話者である我々が親しんできた思考や心性も浮かび上がるはずです。自分が何者かになるためではなく、自分が何者なのかを知るために、ドイツ語を学んでみませんか。
林 祐一郎(山の学校・ドイツ語講師)